じつに彼らしい辞め方だと
なんだか感心してしまった
そんな小泉さんに一度だけ救われたことがある。あるとき、私用でシフトに入れなかった私は別のキャストに代勤をお願いしていた。ところが、その3日前になって、そのキャストから急に代勤ができなくなったという連絡があった。急遽、別の人を探したのだが、わずか3日後ということもあり、なかなか代わりの人が見つからない。
何人か聞いて回ったもののみなダメで途方に暮れていたとき、屋外の喫煙所にいた小泉さんを見つけた。
小泉さんが出勤をしたがっていることは有名だったが、彼によい感情を持っていなかった私はなんとなく頼みづらく声をかけていなかった。しかし、ここまで来たら背に腹は代えられない。
「小泉さん、3日後のシフトなんですが、代わってもらうことできますかね?」私が声をかけると、彼はすぐに携帯でスケジュールを確認して、「私が出ますよ」と即答してくれた。
「直前になってしまってすみません。助かります」と告げると、「かまいません。困ったときはお互いさまですから」と笑顔で返してくれた。その後も、彼はそのことで恩を着せることもなかった。
最後まで小泉さんを好きになることも、親しくなることもなかったが、人には一面からだけでは見ることのできない側面があることを知った。よく言われていることだが、どんな人にも良いところは必ずある。嫌いだと思えば、悪いところだけが目に入るようになってしまうものかもしれない。
そんな小泉さんだったが、私が退職後まもなく、今度はゲストとトラブルを起こしてクビになったのだという。知り合いのキャストが教えてくれた。じつに彼らしい辞め方だとなんだか感心してしまった。
トラッシュカン(ゴミ箱)からゴミを回収してバックステージにあるコンテナに廃棄する業務。ゴミ回収用のカートは二輪カートと呼ばれる。パークが混雑してトラッシュカンの溜まりが早いときはパンクさせないように必死に回収に励み、バックステージのコンテナへ運びまくった。
実際にあるSVをなじっている現場を目撃したことがある。
代わりの人がおらずそのまま休めば欠勤扱いになる。ただ、そんな人はまずおらず、必死で代わりを見つけるか、それでダメなら自分が出ることが一般的だった。
ストレージの近くにあり、愛煙家の小泉さんはいつもそこにいた。仲がいい20代の広野君とベンチにどっかり座り、周囲ににらみを利かせているようだった。