70代、80代の親に、「いつまでも健脚でいてね」「リハビリ頑張って」と言うのは、40代、50代の人間に「高校生のときと同じ生活をしろ」と言っているのと同じようなものです。私自身、器械体操をやっていた高校生のとき、手首の骨を折って手術をしたことがあります。若くて気力も体力も充実していた時期でしたけれど、それでも手術後のリハビリは恐ろしくつらいものでした。

 高校生でもつらいのに、年齢を重ねて、体が動かなくなっていくのが当然という高齢者の方たちにそれを強いるのは、とても酷(こく)な話です。できる範囲でリハビリしているだけでも頭が下がるのに、家族はどうしても元のようになってほしいと思うから、「もっと頑張れ」と言ってしまいます。

 かく言う私だって、自分の父親が複雑骨折をしたら、「リハビリしろ」とハッパをかけてしまうと思います。元気な頃の父のイメージが頭のなかに残っていて、もっと歩けるようになってほしいと思うから。つまり、家族だからこそ親への期待が大きくなって、本人の思いをないがしろにしてしまうリスクがあるのです。

 親が歩けなくなることへの不安を本人にぶつけてしまうし、子どもが不安をぶつけることで、より親を不安にさせてしまう。これではとても「いい介護」とは言えません。

キーワードは「穏やかで持続性のある介護」

 では、どういう介護が「いい介護」なのでしょうか。

 私は、「高齢者にとって、穏やかで持続性のある介護」だと考えます。そして、「親がどんな介護状態になったとしても、家族がそれを受け入れて、良好な関係であり続けること」が重要だと思っています。

 そのためには、家族は親をどうサポートしていくのがいいのか。それを家族と一緒に考えるのが、今の私の仕事です。「いい介護」と「悪い介護」の境目はどこにあるのだろうと思いながら、「高齢者のことを考えたうえで、そこに向かう家族の支援」を念頭に置いて、毎日、相談者である家族と向き合っています。