でも、よく考えてみてください。「手すりをつけてほしい」と言ってこないのは、本人が困っていないからですよね。それを先回りしてつけてしまうと、どうなると思いますか?
それまで手すりがなくても、なんとか歩くことができていたのに、自然とそれに頼るようになって、身体の機能が低下します。結局、手すりなしでは歩けなくなってしまうんです。これが、本当に親のためになっているのでしょうか。
親が安全に生活できるようにと、子どもが勝手に先回りしていろいろやってしまう。これは「介護」ではなく「管理」です。親のためと言いつつ、自分が安心したいがためのリスク管理でしかありません。
たとえば、料理好きだったお母さんの手元が覚束(おぼつか)なくなってきたのを見ると、子どもはたいてい、「ご飯は私が作るから。火事になったら大変だから、ガスコンロを使った料理はやめてね」と、料理するのをやめさせてしまいます。
たしかに、それで火事を起こすリスクは軽減できますから、子どものほうは安心できるかもしれません。しかし、お母さんはどうでしょう? かえって萎縮(いしゅく)してしまうし、何より、唯一の楽しみだった料理を取り上げられて、それで幸せでしょうか。
散歩が日課だったのに、迷子になると困るから外出させないというのも同じことです。家に閉じ込めてしまえば運動しなくなりますから、夜もなかなか眠れなくなってしまいます。
子どもが、親を外出させない、料理をさせない……親を「管理」することは、1人の人間としての尊厳を奪っているのではないかと、私は思うのです。