従来の「親の介護は子の務め」という価値観にとらわれて、親を直接介護したことで、「亡くなったときに連絡をくれれば、もうそれで結構です」というところまでこじれてしまった家族を、それはそれはたくさん見てきました。

 そこまで関係が壊れてしまうくらいなら、まわりから親不幸と言われようと、自分勝手と思われようと、可能な限りプロの手を借りて介護を乗り切る。そして、最後まで家族関係をいい状態に保つほうが、よほど親孝行なのではないでしょうか。

 日本人の多くは、介護と聞くと、40年前から思考停止したまま。親がやっていた介護のイメージを頭に思い浮かべてしまいます。でも、本当に親のためを思っていたら、「もう顔も見たくない」という状態になるまで介護しないほうがいいと思います。

 仕事を辞めて、親のそばにべったり張り付いて介護をすれば、そうなるのが目に見えています。しかも、誰も感謝してくれません。もしかしたら、親戚のおじさんやおばさんだけは「本当によくやってくれた」と褒めてくれるかもしれませんが、それだけのこと。自身のキャリアを失うのはもちろんのこと、子どもがいればその「質の低い介護」を子どもの世代にも見せることになるので、将来はそれが自分に返ってきてしまうかもしれません。

「親孝行しなきゃ」と思っている子どもより、「いやあ、自分は親不孝で、お母さんに申し訳なくて」と介護を人に任せている子どものほうが、結果として「いい介護」になっている。私がそう感じるのは、こうした理由からなのです。

「介護」が「管理」になるとき

「『介護』と言いつつ、それ、親の『管理』になっていませんか」

 そう思うことが、介護の現場ではたくさんありました。

 ご高齢の方がいらっしゃる家族とやりとりをしていると、本人の意向などそっちのけで、ご家族の方が「ここに手すりをつけてくれ」「あそこの段差をなくしてほしい」などと言ってきます。

 ご本人が「まだ、そんなもの必要ない」と言っても、子どもたちが「これだけお父さんが生活しやすいようにいろいろ考えてあげているのに、なんで言うことを聞いてくれないの。つけてもらいましょうよ」となってしまう。結局、本人は手すりなんていらないと思っているにもかかわらず、「子どもがそう言ってくれているのだから」と、渋々つけることを承諾してしまうのです。