日本有数の機関投資家である農林中央金庫が巨額赤字に沈もうとしている。危機を招いた元凶として、農林中金の「独裁化」「政治組織化」が挙げられる。奥和登理事長が独裁体制を築いていく中で運用のプロが排除され、約50兆円の運用方針を決定する理事会のメンバー7人中、2人しか市場運用経験者がいないという脆弱な体制が出来上がった。特集『儲かる農業2025 日本の夜明け』の#4では、その経緯をつまびらかにする。農林中金を立て直す次期トップの本命候補とは。(ダイヤモンド編集部副編集長 千本木啓文)
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独裁化の過程で「運用のプロ」が次々と放逐され
理事7人中、運用経験者は2人だけに…
農協などが集めた貯金を運用している農林中央金庫は、保有する米国債の値下がりなどによって2025年3月期、1.5兆~2兆円規模の赤字に沈む可能性があることを公表している。
この巨額損失による農協の経営への悪影響は計り知れない。農林中金は財務の健全性を保つため、農協などに対して増資に応じるよう要請。1.3兆円の資本増強を行うことが決まっている(詳細は『農林中金の増資の“お粗末な内実”を徹底解明!「当初予定を上回る1.3兆円を調達」との強気発表の裏側』参照)。
農林中金の監督官庁である農水省は、巨額損失の重大性を踏まえ、農林中金の運用失敗の原因を検証し、再発防止策を提言する有識者会議を立ち上げた。
だが、同会議の議論は、農林中金のガバナンスの要である経営管理委員会の責任について検証していないなど偏っていると言わざるを得ない(詳細は本特集の#3『農林中金の「1.5兆円赤字」問題を検証する農水省が「あえて見落としている」重大なガバナンスの欠陥とは』参照)。
農林中金は今後、同会議からの提言を踏まえ、外部有識者の理事などへの登用や、債券に偏重したポートフォリオの見直し、農林水産業への融資拡大などに取り組むとみられる。
しかし、農林中金には、そうした改革を難しくさせかねない人材面の問題がある。
次ページでは、奥和登理事長が独裁体制を築くために行った二つの巧妙な人事施策、その過程で、株式などのリスク資産の運用のプロたちが排除されたために、債券に偏重したポートフォリオを見直すことが難しくなっている内部事情をつまびらかにする。
また、奥氏をはじめとして、政治家や農水省、農協組合長などとの調整に長けた「根回しのプロ」が農林中金を牛耳っていることや、農水省や農協組合長などからの圧力を抑えるために同省の元次官を経営管理委員に迎えるなど、奥氏ら幹部が自己保身のために農林中金を「政治組織化」している実態を明らかにする。