その思いを伝えると、区の職員は同情をこめてうなずく。
「以前は住民税と同じように、お支払いになった生命保険などを差し引き、ひとり親控除なども行った所得に対し、国保料を算定していました。しかしそうなると、ご家族が多い方が優位になってしまうという考えから、現在は基礎控除のみを行った所得で国保料を計算しています」
国保料の計算法については、現在ほとんどの自治体が「総所得金額?基礎控除(43万円)」を算定基礎額としている。そのため扶養控除や社会保険料控除などが国保料には考慮されていない。だからよほど高所得者で、国保料の上限額(106万円)を支払ってもびくともしない人でない限り、一般的に国保料は住民税より高くなる。
「もう国保の制度が破綻しているんです」
区の職員は小さな声で言った
その高い国保料が今後下がることはないのだろうか。
2020年のコロナ禍では医療機関を受診する人が大幅に減り、手術の延期も多数行われた。2020年と2021年の全体の医療費は大きく減ったはずである。それは翌年度以降の国保料の減額として反映されないのだろうか?しかし、これに対しても、区の職員が申し訳なさそうに首を横にふった。
「現在は都道府県単位で考える形ですので、たとえある区の医療費が減っていても、ほかの区がそうでもなければ東京都全体として保険料を安くすることはできません。また、国保は保険料だけでは運営できませんから一般会計からも補填しています。これはいってみれば、企業にお勤めの被用者保険に入っている方の住民税をもらって、国保を支援しているような形です。公平性を考えると、国保は国保の中だけで解決しなければなりません。ですから医療費が減ったからといってすぐ国保料を下げるというわけにはいかず……」
そして区の職員は小さな声で、「もう国保の制度が破綻しているんです」とつぶやいた。
私は労働意欲が失せていくようだった。働いても働いても、その分を保険料にとられていく。私も子どもも、1年間のうちそれぞれ数回しか病院を受診していない。窓口での支払いは3割自己負担でいつも3000円ほどだ。それなら10割負担でも1回につき1人1万円程度。この国民健康保険証を返したい、と真剣に思った。
「僕も行政の窓口で『国民健康保険証を返します』と言ったことがあります」
と、自営業の知人男性が言う。彼は現在の保険料の年間限度額を支払っている。やはり所得の1割を超えるようだ。