「あなたは人生というゲームのルールを知っていますか?」――そう語るのは、人気著者の山口周さん。20年以上コンサルティング業界に身を置き、そこで企業に対して使ってきた経営戦略を、意識的に自身の人生にも応用してきました。その内容をまとめたのが、『人生の経営戦略――自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』。「仕事ばかりでプライベートが悲惨な状態…」「40代で中年の危機にぶつかった…」「自分には欠点だらけで自分に自信が持てない…」こうした人生のさまざまな問題に「経営学」で合理的に答えを出す、まったく新しい生き方の本です。この記事では、本書より一部を抜粋・編集します。
![「株価が上がる確率が6割・下がる確率が4割」のとき、普通のエコノミストは「上がる」と予測する。では一流の驚くべき決断とは?](https://dol.ismcdn.jp/mwimgs/b/1/670/img_b1eb8ad7390f87c593599d4b517f4377281835.jpg)
逆バリは「人生の春」では有効な戦略
このようなケースはヨットレースのような特殊な環境だからこそ成立するのであって、私たちの人生にはあまり縁がない、と思われた方もおられるかもしれませんが、そんなことはありません。
私たちの人生は、日々、選択と意思決定の連続であり、絶対優位の選択が存在することもよくあるのです。
ここでひとつの思考実験をしてみましょう。あなたは無名の若手エコノミストで自分の名前を売り出すことを考えています。さて今回、あなたが行った経済予測の確率分析は次のようになりました。
株価上昇:6割
株価下落:4割
株価はこのまま上昇する確率が高いが、一部には株価下落を示唆する情報もある、という分析結果です。
さて、この時、あなたは「株価上昇」と「株価下落」のどちらを世の中に訴えるでしょうか? そう、聞くまでもありません。「株価上昇」に決まっています。なんといっても、自分の分析結果は「株価が上昇する確率が高い」と出ているのですから。しかし、それで本当に良いのでしょうか?
エコノミストとして自分の名前を売り出す、ということを考えた時、考慮しなければならないのは「他の多くのエコノミストがどのような予測をするか」ということです。そこで、調べたところ、特に有名どころのエコノミストの予測は次のようになっていることがわかりました。
株価上昇を予測するエコノミスト:9割
株価下落を予測するエコノミスト:1割
つまり、圧倒的多数の有名エコノミストが「株価上昇」の予測を出すことがわかったのです。この時、あなたはどのような分析を世の中に訴えるべきでしょうか?
この場合、あなたにとって絶対優位の戦略は「株価下落を訴える」ことです。なぜそうなるのか? 利得を場合わけしたマトリクスで考えてみましょう。
まず、あなたには「株価上昇を訴える」と「株価下落を訴える」という、2つの選択肢があります。他の有名エコノミストの9割が「株価上昇を訴える」ことはすでに所与ですが、この場合、実際に「株価が上昇した場合」と「株価が下落した場合」とで自分にとってのリターンが大きく変わります。
まず、予測通りに株価が上がった場合はどうでしょうか?
もし、あなたが「株価上昇」を予測していたとしたら、確かにあなたの予測は当たりますが、他の有名エコノミストも同じことを予測しているので、これでは埋没したままで状況は変わりません。つまり、せっかく予測が当たったにもかかわらず、プラスはゼロなのです。
一方でもし、あなたが「株価下落」を予測していたとしたらどうでしょうか。あなたの予測は外れ、他の有名エコノミストの予測は当たります。しかし、これで何が起きるかというと、元から無名なので特に実害もありません。つまりプラスはゼロ、マイナスもゼロです。
次に多くのエコノミストの予測とは異なり、株価が下落した場合を考えてみましょう。
あなたがもし「株価上昇」を予測していた場合、あなたの予測は外れますが、他の有名エコノミストの予測も外れるので、埋没したままの状況は変わらず、結果としてプラスもマイナスもゼロです。
一方で、あなたが「株価下落」を予測していた場合はどうでしょう。あなたの予測だけが当たり、他の有名エコノミストの予測は外れるので、「株価下落を言い当てた新進気鋭のエコノミスト」として知名度や評判といった社会資本が一気に成長する可能性があります。
つまり、無名で売り出し中のエコノミストという条件を踏まえれば、たとえ自分の分析では「株価上昇の確率が高い」と出ていても、他の有名エコノミストが「株価上昇」を訴えている限り、逆バリして「株価下落」を訴えることが、この局面では絶対優位の戦略だということになります。
パフォーマンスを上げる≠ゲームに勝つ
本書で紹介している「絶対優位の戦略」のケースに共通してみられる特徴とは、しばしば「パフォーマンスを上げる」選択肢と「ゲームに勝つ」選択肢は異なるという点です。
私たちは、自分が「いったいどのようなゲームを戦っているのか?」という点から遊離して、目の前の仕事のパフォーマンスを上げることを近視眼的に追求してしまいがちです。しかし、そのようにしてパフォーマンスが上がったとしても、肝腎要の「人生というゲーム」に敗北してしまっては元も子もありません。
ゲーム理論の「絶対優位の戦略」によって、自分の目の前にある選択肢について考察するリテラシーを持つことで、私たちは「ゲームに勝つことよりもパフォーマンスを優先してしまう」というミスを防ぐことができるということです。