世の中に必要とされるのは
「これがほしい」を言える人
私がお話ししたことは、決して夢物語ではありません。技術的にはすでに実現可能と思われるものもあるのに、なかなか形にならないのは、社会の姿勢に問題があるからだと考えています。
たとえば、シニア層の自動車事故です。しばしばメディアで大々的に取り上げられます。
「高齢者に運転させたら危険だ」という風潮が広まり、免許返納を促進させようとする動きもありますが、シニア層が我慢をすればそれでいいのでしょうか?
交通インフラが整っていない地域で暮らす人にとって、車は生活の足です。運転するなと言われてしまえば移動手段を失い、家にひきこもる人が出てくることが問題視されています。2019年に筑波大学が発表した調査によると、実際に免許返納をすると6年後の要介護率は2倍以上に上がってしまうともいわれています。もっと過激なものでは8倍になるというデータさえあります。
車で大きなショッピングセンターに行くと、広い駐車場から入り口まで歩かなければなりません。さらに、店の中を歩き回るので、シニアにはけっこうな運動になります。出かけることで気分転換したり、新しい刺激を受けたりすることは脳の活性化にもつながりますから、外出の機会を奪うような施策は喜ばしくありません。
シニアの方に我慢を強いるよりも、誰が乗っても安全な完全自動運転自動車の開発に力を入れるほうが、よほど建設的だと私は思います。AIだけでなく、さまざまな技術が進歩しているのですから、シニアの暮らしを快適にする製品はもっとつくれるはずです。
手前味噌な話ですが、私の著書『80歳の壁』(幻冬舎)がヒットして話題になったとき、数多くの出版社からオファーをいただきました。
一方で、「シニア向けの商品を一緒に考えませんか」というように、商品開発の相談にいらした企業は1社もありませんでした。日本は世界でもトップクラスの超高齢社会です。だからこそ、シニア向けの商品開発はビジネスチャンスでもあるはずなのに、多くの企業はシニアのニーズに視線が向いていないのです。
だからこそ、シニアの方はどんどん声をあげるべきです。体が衰え、生活に不便を感じるからこそ、気づけることがたくさんあります。みなさんの「こんなものがほしい」という要求は、社会を変える大きな力になるのです。