「社員のみなさま、どうか郵便物等を大切に取り扱ってください。私のような犯罪者になってほしくはありません」
東海支社ではこの他にも、放棄・隠匿対策として、郵便物が隠されていないか確認するために、配達員が使うかばんなどを点検したり、「郵便物を隠す行為は犯罪です。1人で悩まず、相談してください」と書かれたポスターを局内に掲示したりする取組みが実施された。
ポスター掲示は関東の郵便局でも行われている。局員から送ってもらったポスターの写真には、「配達しきれない郵便物をかくすこと それって犯罪だよ、マジで」という文面とともに、手首に手錠がかけられる画像が大きく載っていた。
現場の苦悩とかけ離れた
会社側の対策
逮捕されるほどのリスクがあるのに、なぜ郵便物を捨てたり隠したりする事案が後を絶たないのか。それを考えて、対策を打つことこそが会社の責任のはずだ。
日本郵便は取材にこう答えている。
「これまでの事案の分析により、発生させた社員の多くが『郵便物・荷物の放棄・隠匿は犯罪である』という意識なく行為に及んでいました。そのため、郵便物や荷物を捨てたり隠したりする行為が犯罪に該当することなどを社員に理解・浸透させるための対策を継続的に講じるとともに、特に、新たに配達を担当する社員は、(略)時間をかけて丁寧に育成するよう、力を入れて取り組んでいます」
「配達担当者には、その日の業務量に応じた時間での配達を目指すよう指導することはありますが、あて先がわからなかったものや配り切れない郵便物があった場合には、郵便局に持ち戻るよう指導するとともに、持ち戻ったことを報告しやすい、風通しのよい職場づくりにも取り組んでいます」
だが、現場の声からは全く異なる空気感が伝わってくる。

ある郵便局で郵便部門を統括する部長は「配達できなくても誰かに相談すれば何とかなるはずなのに、配達現場では人手が極端に不足し、他人のことまで構っていられない雰囲気が充満している。新しく人を採用しても育てる余裕もなく、結局辞めていく悪循環。本社はコスト削減ばかり求めてくるが、その結果、こんな深刻な状況になっていることをどこまで分かっているのか」と嘆く。
そんな殺伐とした職場の様子を聞くにつけ、私は、Kさん(編集部注/Kさんの夫は郵便配達員で2010年に自死)の夫が亡くなる8日前に口にしたという言葉を思い出した。
「俺だったら『遅くなってどうしたの?』と声を掛けると思うんだけど、みんな黙ってるんだよ」