ちょうどそのころ、ボーイングは炭素複合材などの新技術を積極採用した中型機「787」の開発が難航し、初号機を受け取る全日本空輸(ANA)への納入が遅れに遅れていた。787向けのサプライチェーンの立て直しと、膨れあがるコストへの対応に追われ、別の新型機を白紙から開発する余力を欠いていたという事情もある。
737シリーズの4世代目、のちに「737MAX」と名付けられるモデルは、こうして誕生が決まった。アメリカンからの受注を、エアバスと分け合いつつも、何とかつなぎとめることができた。
エアバスが仕組んだ「罠」
COOがとった戦略
アメリカンがテキサス州フォートワースで開いたボーイングとエアバスへの「大量発注」の発表会に、ある男の姿があった。エアバスCOOのジョン・リーヒだ。
航空コンサルティング会社を率いるスコット・ハミルトンが2021年に出版した「Air Wars: The Global Combat Between Airbus and Boeing」(空の戦争 エアバスとボーイングのグローバルな戦い)は、欧州各国の寄せ集め組織のエアバスがボーイングを脅かす存在にまで成長した30年ほどの両社のせめぎ合いを、リーヒの視点から描いたものだ。
ボーイングが白紙から新型機をつくる計画を捨て去り、エンジン積み替えで対応しようとしたのは、そもそもリーヒが仕向けた罠だったのだというのがハミルトンの見立てだ。
もしボーイングが、案として浮上していた180~250席程度の「ワイドボディーなのに小型機並みの効率性を持つ新型機」を生み出していたら、エアバスもまったく新しい小型機で対抗しなければならなかった。そうなれば、A320を「neo」に進化させるために注いだ何十億ドルもの開発費と時間が無駄になってしまう。
ボーイングの対抗策が737シリーズの単なるエンジン積み替えならば、元になった機体の設計が新しいA320neoに勝算があると、エアバス側は踏んでいた。どこか重要な顧客をエアバスに奪われそうだとボーイングが知れば、慌てふためくに違いない。おそらく、全くの新型機はあきらめ、エンジンの積み替えで対抗してくるだろう。リーヒたちはそう考え、ターゲットを絞りこんだ。
アメリカではアメリカン航空のほか、デルタ航空やユナイテッド航空(かつてはボーイングと同一グループだった)といった大手レガシーキャリア、さらに新興のサウスウエスト航空やジェットブルー航空といったエアラインが群雄割拠している。