
米半導体大手エヌビディアの「1強」が揺らいでいる。グーグル、アマゾン・ドット・コム、マイクロソフト、メタなど米巨大IT(ビッグテック)の生成AIへの投資資金は増大し続けているが、その需要を総取りしてきたエヌビディアを脅かすリスク要因や対抗勢力の存在が顕在化してきた。特集『絶頂か崩壊か 半導体AIバブル』の♯3では、最新のAI半導体の業界地図で、地殻変動の全体像を明らかにする。(ダイヤモンド編集部 村井令二)
過去最大の設備投資を積み上げる巨大テック
“安泰”に見えるエヌビディアに迫るリスク
AI(人工知能)半導体の業界勢力図が刻々と変化している。
米半導体大手エヌビディアは、生成AIに必要なデータセンター用のAI半導体の需要を独占し、競合企業を寄せ付けない「1強」のポジションを固めてきた。
だが、中国の新興企業ディープシークが2024年1月に低コストの生成AIモデル「R1」を公開したことで、高額なエヌビディア製のGPU(画僧処理半導体)の需要が減るとの懸念が広がり、エヌビディア株は一時暴落した。
「そうしたR1への理解は完全に間違えている」。エヌビディアのジェンスン・フアンCEO(最高経営責任者)は、ディープシークのR1は推論に特化した生成AIモデルであることを指摘した上で、エヌビディア製の最新GPUの需要はさらに増大すると主張している。今後の生成AIは、学習よりも推論の場面でより巨大な計算能力が必要になるとみており、ディープシークのような推論モデルの拡大を歓迎して見せたのだ。
今のところは、エヌビディアの大口顧客である、グーグル、アマゾン・ドット・コム、マイクロソフト、メタの米巨大IT(ビッグテック)4社は、ディープシークの登場に動揺することなく、設備投資の金額を積み増し続けている。
25年の設備投資計画は、アマゾンが前年比3割増の1000億ドル(約15兆円)、グーグルの親会社アルファベットが同4割増の750億ドル(約11兆円)、メタは最大で7割増の650億ドル(約10兆円)を見込む。マイクロソフトは25年6月期に800億ドル(約12兆円)を計画。いずれも設備投資を削減するどころか、25年は過去最大に膨らむ見通しだ。
こうした米ビッグテックの強気の計画をみれば、この先1年はエヌビディア製のGPUの需要が急減することはなさそうだ。
それでも、AI半導体の業界を俯瞰すれば、エヌビディア「1強」を揺るがす兆候は静かに顕在化している。目立っている動きは、エヌビディア製のGPUを大量に購入する米ビッグテック自身が、自前のAI半導体を開発していることだ。
その裏には、ある巨大半導体メーカーの存在があり、エヌビディアの強力なライバルになる可能性を秘めている。その巨大半導体メーカーとは何者か。
それだけではない。すでにエヌビディアに対抗しようとする勢力は続々と台頭している。次ページでは、最新のAI半導体業界地図で、地殻変動の全体像を明らかにする。