「らしさ」が刻まれている
超一流人の仕事ぶりに説得力
しかし一時代を築き上げる人というのは、周囲をして「まさにその人」と言わしめるような説得力ある一芸を備えているものだと、つくづく思う。
スティーヴ・ガッドという生き神のようなドラマーがいる。ドラマー史を変えた偉大な人物で、名が売れ始めた頃は技巧派だったが、若い世代中心にみんなが彼に憧れて真似して練習してうまくなったので現代では相対的に「ものすごい技巧派」とも言えなくなった……というような人である。しかしドラミング全体の覇気は比類なく、そこはなかなか模倣されることがなかった。
スティーヴ・ガッドのドラムソロは毎回大体一緒である。細かいところは微妙に違うのだが、ほぼ同じ展開で、最終的にお決まりの必殺技が出る。「ガッドがまたあれをやっている」と思うのだが、それが無性にうれしくかっこよく、こちらの期待が満たされていくことに涙が出るくらい興奮する。そのお決まり・お約束のアウトプットが人の琴線を揺さぶるほど極限まで磨き上げられているからである。
スティーヴ・ガッドや野沢さんを始めとする超一流の表現者は、基礎技術が非常に高いレベルに達しているので、やろうと思えば結構器用になんでもできる。しかしそれをただ器用にこなすだけで終わらせずそこから一歩進んで、自分が自分であることを証明するトレードマークのようなものを作品に刻みつける。渾身の魂の足跡のようなその仕事ぶりを見て、一般人は胸を震わせるわけである。
『119エマージェンシーコール』に刻まれた野沢さんの熱演はまさにそれだった。視聴者は思いがけず野沢節を堪能することができたのであった。
さて、野沢雅子さんのすごいところを分析しながら、真似できるところは抽出して真似してみようかと考えていたのだが、書き連ねるほどになかなか難しそうな気がしてきた。
しかしそれではどうしようもないので、強いてまとめると、
・明るく元気よく
・他人に優しく
・ストイックに
・だが謙虚に偉ぶらず
・全力で己が証を足跡に刻め!
となろうか。急に「足跡に刻め!」と言われてもついていけず、かすかに反感を覚えた人もいるかもしれないが、要するに「何事も全力で取り組めば説得力が備わる」といった辺りのところを汲んで頂ければ幸いである。
上記リスト5つのうち実践できるものはしてみて、ぜひ野沢雅子さんの境地に近づかれたい。身の回りにポジティブな影響を与えるに違いなく、やがてかめはめ波だって撃てるようになるかもしれないのである。