「隗より始めよ」ができない日本
横並び社会に効く“賃上げベスト100”

「外部からの力」には、他社がやっているから自社もやるというものもある。日本の経営者は、他社がやっていることを非常に、本当に強く意識する。これは先の横並びと全く同じ力学だ。

 例えば、日本企業は海外では結構柔軟に賃上げを認めている。なぜならば、海外の労働者はそこで賃上げをしなければ、ほかに引き抜かれたり、離職するからだ。日本企業の経営者は、海外活動では「外部からの力」があることを明確に自覚している。だから、海外の従業員の賃上げには寛容になるのだ。

 筆者は、2023年の春闘はよくやっていると見る。やはり、業界での同調圧力が働いたことが勝因だろう。しかし、その先を続けて日本企業が賃上げができるとはまだ思えない。だから、二の矢、三の矢が必要になる。

 例えば、政府が公務員の賃金を率先して引き上げ、地方公務員や公益法人でも賃上げが積極的になされれば、横並びが崩れる業界も現れてくる。しかし、政府は公務員の賃金を引き上げることへの世論の批判を恐れて、「まずは隗より始めよ」の故事を実践することができない。

え!そんな方法で?一流エコノミストが大真面目に提案する「ポップでユニークな賃上げ促進策」『インフレ課税と闘う!』(熊野英生、集英社)

 ほかに、賃上げをしたくないという「内部の力」を打ち崩すにはどんな方策があるだろうか。

 筆者が考えている1つのアイデアは、時の政権が賃上げを積極的に行っている企業を「表彰」することである。上場企業でも、資本金10億円の大企業でもよい。その中から賃上げに積極的な企業を100社選んで「賃上げベスト100」を毎年表彰するのだ。そうすると、同業他社の企業もそれに倣って賃上げをする。

 日本企業は同業他社がすることに異様なくらいに高い関心を持っている。だから、その効果は絶大だ。「あの会社は賃上げしている」という視点で、個々の企業が注目されることは、外部からの力を強めることになる。

 政府ではなく、その役割をメディアや情報サービス業が行ってもよい。そうした情報がもっと流布されれば、積極的に紹介された企業は優秀な人材を集めやすくなる。