退職を考え直してもらうよう、必死に説得を続けたがCは承知せず、ついに根負けしたB部長は
「わかりました。残念ですがCさんとはご縁がなかったということですね。では、昨日あなたにお渡しした入社祝い金は全額返してもらえますか?」と頼んだ。すると今まで恐縮していたCの態度が豹変した。

「はあっ?そんな話は聞いてないし。返す必要ないっしょ!」

 B部長から報告を受けたA社長は激怒した。

「今思えば、Cは他の2人に比べて転職回数がとても多かった。でも仕事に対するやる気のアピールがすごいし、面接の受け答えもよかったから採用したのに。きっと最初から祝い金だけが目当てだったんだな。まるでドロボウじゃないか!こうなったら裁判で訴えてやりたいがどうすればいいんだか……。そうだ、Fさんに聞いてみよう」

新入社員がすぐに辞めてしまった場合、入社祝い金は取り戻せる?

 翌日の夕方、甲社を訪れたF社労士に、A社長はCの件でのいきさつを話した後「C君に渡した入社祝い金を取り戻したい。拒否したら訴えるつもりです。できますよね?」と詰め寄った。

<入社祝い金(入社一時金)とは>
○ 求人に応募して採用が決まった人に支払われる特別手当のことをいい、人材を積極的に採用したい企業が、自社サイト、求人媒体などに「入社祝い金〇〇円」という形で募集を出す。
○ さまざまな業界で入社祝い金の制度があるが、特に多いのが製造業、運輸業、IT業界などである。
○ 企業が入社祝い金を支給する目的は、人手不足の中でできるだけ多くの人材を早く採用したいからである。求職者側は転職前後の時期は何かと支出が増えるので、入社祝い金がある企業は魅力的に映る。

 F社労士は、面談に同席していたB部長から、求人広告やC、D、Fの履歴書、雇用契約書、誓約書、甲社の就業規則などを預かり、それぞれの関連内容を確認した後、A社長に尋ねた。

「この求人広告を見ると、入社祝い金の30万円は入社時に全額支給すると書いてあります。3名には入社日にお祝い金を渡したのですね?」

「はい。入社式の終了後に現金で渡しました」