「今年も、新卒は誰も来ないのかなあ……」

 2月下旬。社長室でA社長はため息をつきながら、傍らにいたB部長につぶやいた。

「社長、ノンビリしている場合ですか!3月末で5人の正社員が退職するんですよ。2人は定年だから仕方ないとして、あとの3人は全員20代の若手社員です。いい加減若い人に来てもらわないと、関西進出どころか本社の経営も立ち行かなくなります」

「だから君の提案通り、新入社員の初任給を2万円上げたじゃないか」

「ですよね……」

「入社祝い金30万円を支給します」の効果は?

「実は、いい話があるんだ。昨日、同業者の会合で乙社長に若手が来ないと悩みをグチったら『先月、新規採用者に入社祝い金を渡すことにしたら応募者が殺到し、おかげで優秀な人を雇うことができた。Aさんも試してみたら?』と言われたよ。うちの会社でもやってみようと思うがどうだろう?」

「入社お祝い金ですか?ホントにうまくいくんですかねえ……」

 翌日、B部長はA社長の指示通り、いつも利用している求人媒体の営業担当者に連絡し、至急「入社時に入社祝い金を30万円支給します」の文言を追加した求人広告を出すように頼んだ。反響は上々で、広告を出した翌日までになんと30名もの応募があり、その中から将来関西工場への転勤をOKするという条件で20代後半の求職者3名と雇用契約を結んだ。この結果に、A社長とB部長は「入社祝い金の効果はすごい」と喜んだ。

 3月初旬の月曜日。3人はそろって入社式に臨み、午後から新入社員研修を受けた。しかし翌日の朝、その中のひとりであるCからB部長宛てに「会社を辞めます」とのメールが入った。

 驚いたB部長はすぐにCの携帯に電話をし、「何か不都合でもありましたか?」と尋ねた。

「入社祝い金を返して」「そんな必要ないっしょ!」

 Cは申し訳なさそうな声で「昨日研修を受けてみて、自分には大変そうで働ける自信がありません」と返した。

「仕事は上司がきちんと教えるから心配いりません。一緒にがんばりましょう」