「文書類を拝見したところ、入社祝い金の返還に関する事項の記載がないようです」

「それじゃCの言う通り、お祝い金を返さなくてもいいのか。こんなことになるなら『入社後すぐに辞める時は祝い金を支給しない』みたいな取り決めをして、誓約書に追加するんだった」

<入社祝い金を支給後すぐ退職した場合返金要求ができるか>
○ 入社祝い金について、一定条件を定めそれに満たなかった場合は返還する旨の取り決め(誓約書を提出してもらうなど)がある場合、労働基準法第5条及び第16条により、上記の契約が労働者を不当に拘束し、意思に反して労働を強制するものと判断される可能性がある。
○ 労働基準法第5条及び第16条に違反する場合、その返還義務を定めた契約は無効となるため(労働基準法第13条及び民法第90条)。原則として労働者は入社祝い金を返還する義務を負わない。

<参考>
労働基準法(以下「同法」)第5条:使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神または身体の自由を不当に拘束する手段によって、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。
同法第13条:この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とし、無効となった部分は、この法律で定める基準による。
同法第16条:労働契約の不履行について違約金を定め、損害賠償額を予定する契約をしてはいけない。
民法90条:公の秩序または善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。

 F社労士の話を聞いて、B部長はひどく腹を立てた。
「誓約書を取っても入社祝い金を返してもらえないとは、会社にとって不利ですよ。社長、支給はもうやめましょう」

「いや、中止の決断はまだ早い。C君は別にしても、D君、E君が入社したのはこの制度があったからだ」

「でも彼らだってすぐ辞めるかもしれませんよ」

問題が起きないように入社祝い金を支給するには?

 F社労士は2人の会話に割って入った。

「落ち着いてください。入社祝い金の制度自体悪いことではありません。ただ、祝い金の額とか渡す時期など、支給方法には工夫が必要です」