これをつかさどっているのが、OPN4です。これは最も研究されている非視覚型光受容体でもあります。OPN4は視交叉(しこうさ)上核という脳の一部に神経を伸ばしています。この部分が、じつは体全体の体内時計を決めている親玉で、言ってみれば、電波時計の電波塔みたいなものなのです。
バイオレットライトを当てると
育毛にも効果が期待できる
我々の体は30兆~60兆個もの細胞によって、成り立っていると言われています。それぞれが時計を持っていて、昼と夜とで活動を変えて適応しているのですが、60兆個もあれば、少しずつずれていくことも考えられます。
それをまとめて、今は昼間だよとか、もう夜で寝る時間だよと伝えているのが、SCN(suprachiasmatic nucleus視交叉上核)なのです。そしてこのSCNに、実際の光時間情報を与えるのがOPN4ということになります。
皆さんが例えばニューヨークに旅行に行くと、なかなか寝付けずに困ることがあると思います。それは体内が日本時間のままですから、ニューヨークでは夜の8時であっても、体の中では朝の10時なので、寝られないという事態になるわけです。
このとき、現地の時間に合わせるには、現地の光を昼間にしっかり浴びて、体を現地の時間にリセットしていくしかありません。

坪田一男 著
これをやるのがOPN4です。1日に約2時間は戻せるので、12時間まるまる反対側の外国に行った場合には、時差ボケ解消に6日間必要なことになります。
最近になって、面白いことがわかりました。肝臓・腎臓・膵臓(すいぞう)といった臓器は、このSCNによって時間が決められていくのですが、なんと直接光が当たる目や皮膚、毛根などはOPN5で時間が決まるというのです。
毛根にはOPN5があり、我々のマウスを用いた研究ではバイオレットライトを当ててOPN5を活性化すると、毛の生え方が良くなることがわかりました。そこで今、バイオレットライトを使った育毛のデバイスの開発をしています。
帽子をかぶっているとはげやすい、という都市伝説がありますが、これは頭が蒸れるからだと考えられていました。しかし、もしかするとバイオレットライトが当たらなくなることが、毛髪のサーカディアンリズムを乱して、成長を阻んでいるのかもしれません。