マインド・リーディングが可能なのは嘘だけではない。朝日新聞は、ATR脳情報研究所のグループが、睡眠中の脳活動パターンから見ている夢の内容の一部を解読することに成功したと伝えている。夢を見ているときの脳の活動を計測し、その直後に夢の内容について報告してもらうことを繰り返したうえで、新たに夢を見ているときの脳の活動を計測し、過去の脳活動データと照らしあわせることで、その夢になにが出てきたかを判定するのだ。
このプログラムで、夢にあるものが出てきたかを判定したところ、15種類のアイテムについては7割以上正しく推定できたという。また、朝日新聞は、京都大学のグループが、人間がなにを見たり想像したりしているかを人工知能が脳活動のパターンから推測する技術を開発したと伝えている。
深層学習を用いることで、人工知能が未学習の物体を見ているときや、頭で思い浮かべているだけのときでも、なにを見ているかを推定できるという。これらの技術が過去15年ほどのあいだに急速に発展してきたことを考えれば、脳の活動から思考を読み取るという部分にかんしては、『ブレインストーム』が描く世界を実現できる日も、そう遠くないかもしれない。
人間の内面は究極のプライバシー
技術利用で生じる新たな問題
マインド・リーディング技術のサイボーグ技術やマーケティングへの応用は興味深い。しかし、これは人の心を読む技術なので、使い方によってはさまざまな問題が生じるはずだ。おもな問題を検討しよう。
第1の問題は、どのような場合ならばマインド・リーディング技術を用いてよいのかということだ。われわれはプライバシーを重視する。通常問題になるのは、無断で人の部屋に入るべきでないとか、無断で人の日記を読むべきではないといったことだ。
これにたいして、ある人がなにを考えているかは、本人がそれを明かさないかぎり、周りの人にはわからない。なにを考えているかということは、いわば究極のプライバシーだ。しかし、それを侵害する手段が存在しないため、これまではそれを問題にする必要はなかった。
マインド・リーディング技術は、この究極のプライバシーの領域に第三者が踏み入ることを可能にする技術だ。そうだとすれば、この技術の利用には慎重な検討が必要だ。