夫の故郷、宜野座村で実家の隣に家を構えてからは、親戚の紹介で村役場に勤めていた。沖縄本島の中央部東海岸に面する宜野座村は、「水と緑と太陽の里」とうたうだけあり、豊かな自然に囲まれた地で、本土からの移住者が相次いでいる。
山田さんの自宅の周りはのどかなサトウキビ畑が広がり、近くの道路は野生のマングースや亀が、のんびり横切ることもある。自宅からほど近い職場は、子育てしながら働くには絶好の環境だった。
新人の正職員との
待遇の違いに疑問
しかし、あるときから疑問が膨らんでいく。新人の正職員に、議会予算の組み方など、財務、税務の仕事を教える役目を担いながら、山田さん自身は非常勤職員。
給与は新人のほうが高かったのである。
「新人のほうが給料がいいし、一生公務員として身分が保証されている。でも、私はどう頑張っても臨時職員のままだ」
仕事は生活の糧を得るためと割り切っていた。電気工事業を営む夫との共働きながら、3人の子どもを育てるための教育費、生活費のために働いてきた。
ところが、それでいいのかという思いがわいてきたのだ。
「一生、パートの職員では嫌だ。社会のなかで、山田リサという存在になりたい」
正社員となりキャリアを積んで、さらに経済力をつけたい、そう心に決めてハローワークに足を運んだ。ここで出合ったのが、前田産業ホテルズの求人広告だった。
「経理職。正社員で長く働ける人、キャリアアップをしたい人を求む」
この言葉が、キラキラ輝いて見えた。「ちむぐくる(真心)をもっておもてなし」をすることをクレド(経営信条)として「ちむぐくれど」と名付けて社員で共有していることにも、心動かされた。
「土日勤務あり」の仕事に
家族との協力は必須
無事に採用が決まってからは、家族会議だ。何しろ、車で片道1時間強の職場に通うことになり、ホテルのため土日の勤務もある。
夫はすんなり「いいんじゃない」と賛成してくれた。次は3人の子どもたちだ。お母さんは、もっと仕事をしたいこと、夜遅くなる日もあること、お稽古ごとには子どもだけでバスで通うことになると丁寧に説明した。