人間の聴覚はものすごく鋭敏
F:左のスピーカーから運転席に座る人の左耳までの距離が1メートルとして、340分の1秒差。そんな違いが人間に聞き分けられるものですか。
疋:聞き分けられます。人間の聴覚って本当に鋭敏なんですよ。たとえばCD音源に、たった1か所だけ“ピッ”という異常な音が混ざっていたとします。たった1サンプル、ほんの一瞬の小さなノイズでも、人間の耳はそれを敏感に感じ取ってしまいます。CDの音は、1秒間に4万4100回の精度で、つまり44.1kHzで録音・再生されています。1サンプルの長さは、わずか約0.0000227秒です。
そんな一瞬の音でも、耳は『今、なんか変な音がしたぞ』と察知してしまうんです。
一方、映像で1コマだけノイズが混じっても、多くの人は気づかずに見過ごしてしまいます。要するに耳は時間のズレや微細な違和感に対して、目よりはるかに鋭い感覚を持っている、ということです。
F:はー。そういうものですか。疋田さんのように鍛え抜かれた耳を持った変人……いや失礼、超人だけでなく、我々素人でも聞き分けられるものなのですか?
疋:もちろんです。素人さんでも「何か変な音になったな」とか。「プツって一瞬変な音がしたな」とか、1個変なノイズが立っているだけでも、人間は聞き分けられます。そして「おかしい。何か変」と言われてしまうんです。音の世界ってそういうものなんですよ。人間の耳ってすごいんです。
運転してる人だけでなく、乗っている全員がいい音で聴けるように
三菱自動車工業 商品戦略本部 CPSチーム(Light Commercial Vehicle)商品企画 担当マネージャー 矢口信之さん(以下、矢):ちょっと話が前に戻りますが、リスニングポジションを変えられる設定にしたのは、決してドライバーだけがいい音を聴けるのではなく、乗っている皆さんがいい音を聴いてもらうようにするためです。運転しているお父さんだけが楽しくて、他の家族が楽しくないなんて、クルマ屋さんとしてそれはないなと思いますので。
F:とてもランエボを造っていた会社の人のセリフとは思えませんね。「セダンだから大丈夫」と父ちゃんが家族を煙に巻いてガチガチのクルマを買っちゃって、家族はみんな泣きを見るという(笑)。
矢:いやいやいやいや(苦笑)。もしランエボが復活したら、責任をもってオーディオをやらせてもらいます。
F:ヤマハの音を言葉にすることはできますか?