「できることは限られている」
信頼回復に向けた道
伊東と佐野が置かれていた状況は異なる。逮捕の有無だけでなく、同じ不起訴処分でも理由が明示された伊東に対して、佐野は明らかにされていない。それでもワールドカップ出場決定がかかった3月シリーズではなく、実質的な消化試合となった6月シリーズで佐野を復帰させたのは、メディアや世間から注がれるさまざまな視線から選手を守る、とする森保監督の配慮が伊東に続いてはたらいていたからだろう。
舞台を大阪に移した6月10日のインドネシア戦で、再びボランチとして先発した佐野はフル出場を果たし、大量6ゴールを奪い、守っては零封した最終戦を縁の下で支えた。オランダのNECナイメヘンでプレーし、6月シリーズで初招集された3歳下の実弟、佐野航大との初共演も実現させた。
試合後に「賛否の声もあるが」と問われた佐野は、自らに言い聞かせるようにこう答えている。
「自分にできることは限られているので、それを全力でやり続けるだけです」
ヨーロッパ組も加わる次の日本代表活動は、9月上旬に行われるアメリカ遠征となる。日本時間7日にカリフォルニア州オークランドでメキシコ代表と、同10日にはオハイオ州コロンバスでアメリカ代表と、ともに次回ワールドカップ開催国との連戦に臨むメンバーは8月下旬に発表される。
来年6月の本大会へ、いよいよ絞り込みが始まる戦いに佐野が名を連ねれば、再び賛否両論が沸きあがるだろう。しかし、スポーツと社会がつながっている以上は、佐野にとって避けては通れない道となる。
家族の一員としてともに戦っていくとエールを送ってくれた、森保監督の期待に応えるために何をすべきか。答えはすでに自らが弾き出している。自らの過去を真摯に受け止め、信頼回復というゴールへ向けて、マインツでの日々と同じく一歩ずつ、歯を食いしばりながら前進していく覚悟はもう固まっている。