ワールドカップ予選に向けて
森保監督はどう動いたか

「マインツの責任者は沈黙を貫いている。被害者やクラブの周囲、社会へ向けて『マインツはこの問題を解決する気がない』と致命的なメッセージを送っている点で、大きな間違いを犯している」

 こうした指摘に対して、マインツ側も佐野の不起訴処分を支持しながら真っ向から反論している。

「佐野海舟への捜査は、東京地検によって取り下げられた。当局による法的な判断は私たちにとって決定的なものであり、私たちはこの件に関してクラブ内で集中的に話し合い、同時に佐野との個人的な話し合いも行った。そのなかで、私たちのチームに彼を迎え入れる決定に反する情報は何も得ていない」

 すぐにマインツのボランチに定着した佐野は、昨シーズンのブンデスリーガにおいてチームでただ一人、全34試合で先発出場した。途中交代は2度だけで、プレータイムの合計3044分はフルタイム出場した場合の実に99.48%に到達。驚異のタフネスぶりを発揮して、チームの6位躍進に貢献した。

 個人的な数字に目を向ければ、総走行距離393.7kmは堂々のリーグトップ。スプリント回数764、デュエル勝利数209、インターセプト数65でも同じく最多をマークし、空中戦の勝利数162でも3位につけるなど、シーズン中に24歳になった佐野はルーキーながらリーグを代表するボランチになった。

 しかし、ヨーロッパの5大リーグのひとつで異彩を放ち続けても、日本代表の森保一監督は佐野の再招集に慎重だった。2026年の次回ワールドカップ出場をかけたアジア最終予選が始まった昨年9月以降で、佐野が一度も呼ばれないまま、日本は今年3月シリーズで8大会連続8度目の本大会出場を決めた。

 そして、次の6月シリーズで風向きが大きく変わった。敵地でオーストラリア、大阪でインドネシア両代表と対戦するアジア最終予選の残り2試合へ臨む代表メンバー27人に森保監督は佐野を加えた。佐野の招集は怪我で辞退した、昨年3月の北朝鮮代表とのワールドカップ・アジア2次予選以来だった。