ジュエリー業界は在庫のマネジメントがすべて

保田 望月さんがもっとも重視している経営指標は、やはり在庫関連になります?

望月 在庫ですね。本当にジュエリー業界は在庫がすべてです。あとは入金と出金を管理するキャッシュフローマネジメント。実にシンプルですね。

保田 極論すると、商品ごと、事業ごとの利益率などは二の次ですか?

望月 ここはとても難しいですね。というのも、金やプラチナの地金が日々大きく変動する市況商品なんです。為替や金利と同じで、毎日相場とにらめっこです。さらに、先ほど説明したように実勢相場で現金払いです。経営者仲間にジュエリービジネスの事情を説明すると、「そんな商売、すごい大変じゃない」って、みんな言いますからね(笑)。

保田 地金の相場の上昇を価格に転嫁できなければ、利益率のコントロールはできないということですか?

望月 もちろん最終的には売値に反映させます。

田中 でも、市場原理で言うと、小売価格は市場が決めますよね。いくらで買うかはお客様が決めます。だから、材料費がいくらなんてことはお客様には関係のない話ですよね。

望月 関係ありません。だから、実はジュエリーって、昔に比べて小さくなっているんですよ。

田中 そうなんですか! 品質で微調整をしているわけですね。

望月 過去20年地金が高騰したので、1990年に買った3万円の商品と、いまの3万円の商品を比べたら、明らかに小さいんですよ。価格を大幅に上げるのは難しいので、デザイン性を変えたりして価格を維持するようにしています。

田中 華やかなジュエリー業界ですけど、舞台裏のお話しをうかがうと、なかなか難しいビジネスですね。

望月 とにかく在庫リスクが怖いので、ガンガン作ってガンガン売りましょう、といった営業方針は絶対に取りません。それをやって多くの会社がこの業界からいなくなったのを見てきましたから。「迷ったら、作るな」という方針にしています。「これ売れるかな? まあいいや、作っておけ」というやり方はやめてくれ、と言っています。

毎月の実地棚卸までしっかりやってこそ、本当の月次決算

田中 そういえば、在庫の実地棚卸はどのくらいの頻度でされていますか?

望月 毎月実施しています。ジュエリービジネスは、圧倒的に仕入金額が高いので、在庫管理を徹底しなかったら、あっという間に利益が吹き飛びます。それでも、ジュエリー業界で毎月きちんと在庫の棚卸を行っている会社は少ないですね。

田中 在庫の実地棚卸をおろそかにしている社長さんって多いんですよ。私も倒産寸前の会社から相談を受けたとき、「在庫を見せてください」とお願いしたら、案の定、倉庫にいっぱいあるわけです。「ここに在庫はどのくらいあるんですか?」と聞いたら「わかりません」と答えるんです。不思議なもので、経営が傾いた会社は、まず毎月きっちり在庫の棚卸をすることから始めて、どこに何があるかを把握して、在庫のマネジメントをするだけで一気にキャッシュフローが改善します。

望月 「月次決算をやっています」と言う社長さんは多いけど、実地棚卸までしっかりやってこそ、本当の意味での月次決算だと思います。

田中 それをきっちりやると、会社は無駄な仕入れをしなくなります。だから、キャッシュフローが改善するんです。ちなみに、キャッシュフローの管理はExcelでされているんですか?

望月 はい。私が「Excelでこういう資料を作るように」と指示しています。