経営者と会計&ファイナンスの関係性に迫るシリーズ5人目のゲストは、山梨県甲府市に本社を置くジュエリーのデザイン・製造・販売を行う株式会社ラッキー商会の社長、望月直樹氏です。
あわせて学ぶ 会計&ファイナンス入門講座』の著者、田中慎一氏が、「知る限りで最高のオーナー企業の経営者の1人」という望月氏の経営手法とマインドに迫ることで、中小企業経営の成功のヒントを抽出します。

在庫が減らないと新商品は作らない 

田中 望月さんが社長になってから新しく取り組んだ財務管理などの施策があれば聞かせてください。

望月直樹(もちづき・なおき) 株式会社ラッキー商会・代表取締役社長。 1975年生まれ。株式会社パソナを経て、株式会社リクルート・マーケティングソリューションDIVにて勤務したのち、2004年より現職。 早稲田大学大学院修了。趣味はゴルフ、トライアスロン。

望月 前職のリクルートは情報産業なので、人がすべてです。ジュエリーのビジネスは、在庫が大変な重荷になります。そこで私は、キャッシュフロー管理と在庫管理を徹底しました。

田中 望月さんが引継ぐまではドンブリ勘定だったとか?

望月 完全にドンブリでしたね。実際、製品を多く作れば売上が上がるんですよ。だから営業は、どんどん作って在庫を積み上げたい。でも、私は、入金と出金のグラフを毎日作ってキャッシュフローを徹底的に管理したので、入金とのバランスが崩れてくると仕入れをストップさせました。

田中 社員が追加で作りたいと言っても、「まずは売ってこい」ということですね。

望月 そうです。「在庫が減らないと新商品は作らせない」と言い続けたので、最初は反発が大きかったです。今の在庫水準は、当時の半分になっています。私が社長になる前、ピーク時の売上に対して在庫が12億円もありました。

田中 それはまたずいぶん過剰在庫ですね。

望月 いまは売上25億円に対して在庫が6億円です。ちなみに、金とプラチナの地金って、月に1億円も仕入れるんですよ。しかも、地金は世界共通、その日の実勢相場で現金払いです。その地金を成形するまで1ヵ月、さらに、製品にするまでプラス1ヵ月かかります。

田中 それはずいぶん長い間、キャッシュが寝ることになりますね。

望月 約2ヵ月です。もっと辛いのは、手形取引なので販売から回収まで約5ヵ月かかることです。つまり、7ヵ月分のキャッシュがないと、このビジネスをやれない、ということです。それを理解していないから、倒産する会社が続出したわけです。

仕入れ予算も作り、キャッシュフローを重視する発想に転換

田中 望月さんは、キャッシュフローをラクにするために何か手を打ったんですか?

望月 いまは販売から回収まで平均3ヵ月に短縮しました。また、私の代から始めたジュエリーのネット通販と観光バスの事業は現金取引なので、回収サイクルが早いですね。それから、無理して売っていた卸先への販売もやめ、与信限度額の設定も厳格に行いました。売上より利益やキャッシュフローを重視する発想へ変えていきました。おかげで、この10年間、赤字は一度もありません。

保田 在庫を減らすということは、商品ラインナップも減らしたんですか?

望月 在庫として持てる金額を決めるということです。昔は商品が売れようが売れまいが、現場が勝手につくれる状態でした。だから、売上目標とともに仕入予算も設定しました。

保田 お父様の時代は、売上予算も仕入予算もなかったということ?

望月 売上目標はありましたが、仕入予算はなかったですね。「今度、展示会があるからつくれ」といったノリでした。私が引継いだ頃は「今回いくら作ったんですか?」と聞いても「知りません」という感じでしたから(笑)。

保田 望月さんが引継いでからは、どのように仕入をコントロールしていったのでしょうか?

望月 在庫が残っているうちは、とにかく在庫を消化するようにということを徹底しました。当然、仕入れを控えてもらいます。場合によっては価格を下げて販売するという選択肢も考えます。そうすると営業マンは新商品を仕入れて販売したいので、頑張って売ります。それまでは在庫を膨らませるのも自由だったから、極論すると仕入れたものを全部売らなくてもよかったんです。「社長! あの商品は全然売れないので、ほかの商品を作りましょう!」といったことを真顔で言ってきました。