今回取り上げるのはエディス・ペンローズ著『企業成長の理論』(第3版)です。原著は難解で有名ですが、それでも版を重ねてきたのは、経営の真髄を説いているからにほかなりません。その真髄のエッセンスを少しだけご紹介します。
ブラックボックス化されていた
企業行動に切り込む大作
原題は“The Theory of the Growth of the Firm”、第1版は1959年に米国で出版されています。邦訳は1962年に第1版、80年に第2版がダイヤモンド社から出版されました。本書第3版は原書が1995年、邦訳は2010年に上梓されています。著者のエディス・ペンローズは第3版出版の翌96年に82歳で没しています。
本書は非常に難解だと言われていますが、全編にわたって数式や図表を使用しておらず、文章だけで叙述しているためでしょう。彼女自身の造語も多いようです。
基本的には新古典派ミクロ経済学をベースにしていますが、ミクロ経済学がブラックボックスにしている企業の内部を分析しているところに独自性があります。1950年代以降の経済学は、ペンローズと同様に新古典派ミクロ経済学のセントラルドグマ(教義)である「完全競争市場」「企業の利潤極大化行動」といった前提から離れ、より複雑な企業や人間の行動を研究していく方向にありました。
本書は長大ですが、日高千景・慶応義塾大学商学部教授による「訳者あとがき」を先に読んでおきましょう。最初から読むにあたって適切なアドバイスとなります。
ペンローズは、企業をブラックボックスとして扱う伝統的な経済学とは異なり、その「内側」を重視する。「内側」を重視した結果、企業は二つの属性――物的・人的資源の一個の集合体であること、一個の管理組織体としてその全体に調整が及ぶこと――から定義される。(略)資源は潜在的なサービスの束である。すなわち、物的であれ人的であれ資源にはさまざまな活用の仕方があるが、ある時点では実はその一部が用いられているにすぎない。したがって、企業内には未利用のサービスが常に存在している。加えてペンローズは、資源から何らかのサービスが引き出されるのは、資源について人的資源が有する知識に依存すること、事業活動での経験を通じて、企業内の人的資源の知識は増大し、また、その内容は変化するのにともなって、増大し変化する。かくして、企業の内部には、常に成長の機会が存在することになる。(367-368ページ「訳者あとがき」より)