アドラー思想を
編集する作業
──『幸せになる勇気』の企画は1年以上前から始まったわけですが、刊行に至るまでどのような点に苦労されましたか?
株式会社バトンズ代表。ライター。1973年福岡生まれ。書籍のライティング(聞き書きスタイルの執筆)を専門とし、ビジネス書やノンフィクションの分野で数多くのベストセラーを手掛ける。2014年、「ビジネス書ライターという存在に光を当て、その地位を大きく向上させた」として、ビジネス書大賞2014・審査員特別賞受賞。前作『嫌われる勇気』刊行後、アドラー心理学の理論と実践の間で思い悩み、ふたたび京都の岸見一郎氏を訪ねる。数十時間にわたる議論を重ねた後、「勇気の二部作」完結編としての『幸せになる勇気』をまとめ上げた。単著に『20歳の自分に受けさせたい文章講義』。
古賀 僕は今回の原稿をまとめるにあたって、英語版を含むアドラーの著作を、もう一度全部しっかり読み返しました。アドラーの著作は、彼が複数の講演で喋ったことを編集者がまとめ、一冊の本に整えたものが多いんですね。そのため、構成が練られておらず、前後で矛盾した話をしていたり、途中で文脈がつながらなくなるような著作も多々あります。いわば、ひっくり返ったおもちゃ箱のような状態です。
今回、もっとも苦労したのは、そこを整理していく作業ですね。おそらく長年アドラーを研究されてきた岸見先生もそうだと思いますが、部屋中に散らばった宝物を拾い集め、もう一度アドラーの思想を体系立てて編み直していく、編集者のような作業が必要でした。だから、ライターや作家としてアドラーと向き合ったというよりも、アドラーの思想をいちばんうまく伝え、整合性を与えていく編纂作業をずっとやっていった感覚がありましたね。
岸見 長年アドラーの研究や翻訳をしてきたわけですが、なかなか多くの人に理解されるには至りませんでした。しかし、古賀さんという非常に優れた理解者と出会えたことは大きな喜びでした。アドラーあるいは私の考えを古賀さんがあたかも口寄せするかのようにまとめて下さった。その意味で本書をつくるのは私にとっては苦労ではなく素晴らしい経験でした。ただ、古賀さんは本当に大変だったと思います。アドラーや私が言っていないことは少しも入っていないんですね。ほんとうに驚きです。