野地秩嘉
第三九回
長生庵は築地の場外にある、一見、普通の日本そば屋だ。朝の7時から営業している。その時間に食事をしている、あるいは一杯やっているのは、市場に仕入れに来ている飲食店の人が多い。

第三十八回
とんかつのおいしさでもうひとつ、よく言われるのが「揚げたてがいい」という話だ。だが、果たしてそれは本当なのか。「山さき」の山崎美香さんが作ってくれた弁当(写真)は万葉軒の薄い肉を4倍くらいには厚くしてある。肉はしょうが焼き用のそれ。それをカリカリに揚げて、下に千切りキャベツを敷いた。写真の弁当にはウスターソースがかかっているが、わたし自身は飛行機に乗る時はチューブからし、パック醤油を持参している。

第三十七回
とんかつと洋食の店「ひげ虎」は東横線新丸子駅の改札を下りて、目の前にある。同店のキャラクターを、ちょっと大袈裟に言えば、ずばり「肉の満漢全席が食べられる店」だ。

第三十六回
ブレーメンそばは490円。かけそばの上にフランクフルトソーセージが2本、フレンチフライポテトが5本、わかめ、ねぎが載っている。ドイツを代表するソーセージとポテトが日本を代表するそば、わかめ、ねぎと丼のなかで交流しているわけだ。

第三十五回
マリアカフェのバブル、そして、ファットバーガーのフレンチフライ。どちらも味は町の肉屋が揚げているじゃがいもコロッケそのものと言っていい。ロンドンやロサンゼルスへ行かなくとも、わたしたちはバブルとフレンチフライの味を思い浮かべることができる。じゃがいもとラードの出会いこそが庶民の味だ。

第三十四回
大金はだいきんと読む。浜町と人形町の中間に位置している。創業は明治25年(1892年)。当時から鶏肉の料理を出していたのだが、そのなかの「きじ丼」はどうやら雉肉だったらしい。

第三十三回
「台湾小吃 美(メイ)」は、ブレーメン通りから少し入った路地に面している。店名にある口偏に乞という字は「食べる」「食事する」という意味で、小吃(シャオツー)とは軽食のこと。ひいては、おそうざいのような食べ物でもある。要は家庭料理の食べられる大衆食堂と理解したい。その名の通り、同店のメニュー、雰囲気とも台湾各地にある大衆食堂そのままである。

第三十二回
学芸大学駅を降りてから3分ほど歩いた路地にあるのが栄屋肉店。町のお肉屋さんである。全従業員数は2名。山中勝、ミツ夫妻。ふたりとも今年、80歳になる。

第三十一回
市ヶ谷の良心とも呼べる家庭料理「はなむら」は防衛庁オフィスの至近にある。なんといっても量が多い。安い。うまい。加えて、肉料理と青森郷土料理の宝庫でもある。

第三十回
夜、なる川へ行くと、酒を飲んで盛り上がっているグループ客の隣で、イヤホンで音楽を聴きながら、スマホで検索をし、銀しゃけの身をほぐすというマルチタスクを行う女子が必ずいる。居酒屋であり、かつ、食堂という店だ。

第二十九回
浅草橋から歩いて5分のところにある洋食店「一新亭」。テーブルが3卓の小さな店だ。創業は1906年。日露戦争が終わった後のこと。開業したのは現店主、秋山武雄の祖父だ。祖父の後、父親がキッチンに立ち、秋山は三代目になる。

第二十八回
東横線学芸大学至近の居酒屋「さいとう屋」は、カウンターとテーブルを合わせて16席。夕方から夜までの営業だけれど、つねに満席の状態だ。店を切り盛りしているのは齋藤功と陽子夫妻。家族経営の店で、家族が親密なのは、見ていて気持ちがいい。

第二十七回
御徒町にある、ふぐ・和食の店「お徳」はマスコミ初登場だ。わたしは「オレさまが口説いたんだぜ」と自慢したいわけではない。あまりに安くておいしい店だから、こういうところこそ、どんどん取材したらどうかと天下に向かって言いたいのである。

第二十六回
神田淡路町「天兵」は庶民のための天ぷら専門店だ。たとえば天兵の天丼は1250円だ。天丼チェーンのそれよりも高い。しかし、天タネは天然海老が2本、魚(キス、穴子など)が2種、野菜が2種である。赤だしとおしんこもつく。ご飯は魚沼産コシヒカリ。ご飯の大盛りはサービスだ。

第二十五回
「友路有」はトゥモローと読む。赤羽に3店、浅草に1店舖ある喫茶店チェーンだ。「昔ながらの喫茶店」という看板通り、同店の雰囲気は昭和40年代、50年代を彷彿させる。

第二十四回
日暮里駅から歩いて3分の場所にある一由そば。独自路線を行く人気の立ち食いそば屋だ。同店は24時間営業である。深夜でも早朝でも、店内には、そばをすすっている人がいる。時には10人以上が深夜にそばをすすっている。食事時は人であふれかえり、オーダーすることさえままならない。

第二十三回
東急東横線・都立大学駅から駒沢通り方面へ向かう。コンサートホールや図書館が入っている「パーシモンホール」の向かいに小さな店がある。店のエントランスには白い布が垂らしてあり、赤い色の飾り文字で「Tonoo's」とある。

第二十二回
喫茶店、洋食店のシーザーは溜池交差点のコマツビル地下にある。コマツビルといえば1991年まで屋上に黄色いブルドーザーが載っていた。

第二十一回
ゆずは定食屋だ。おかずは30種類以上もある。いずれも手作りで、冷凍ものを油で揚げたものなど一つもない。さらに他の定食屋と違っているところは上記のメニューから2品を組み合わせて、ご飯、味噌汁、おしんこ付きで950円で出しているところだ。

第二十回
高円寺の食堂兼居酒屋「福福」。秋田料理を標榜しているだけあって、きりたんぽ鍋(2000円)、ハタハタ寿し、いぶりがっこ、秋田しょっつるカマンベール(いずれも500円)などがメニューに載っている。店主の竹内真由美は「うちのは秋田そのままの味です」と、どんと胸を叩く。
