「土地と資源」の奪い合いから、経済が見える! 仕事に効く「教養としての地理」
地理は、ただの暗記科目ではありません。農業や工業、貿易、交通、人口、宗教、言語にいたるまで、現代世界の「ありとあらゆる分野」を学ぶ学問です。また、2022年から高等学校教育で「地理総合」が必修科目となることが決定しました。
地理という“レンズ”を通せば、ダイナミックな経済の動きを、手に取るように理解できます。地理なくして、経済を語ることはできません。
本連載の書き手は宮路秀作氏。代々木ゼミナールで「東大地理」を教えている実力派講師であり、「地理」を通して、現代世界の「なぜ?」「どうして?」を解き明かす講義は、9割以上の生徒から「地理を学んでよかった!」と大好評。講義の指針は、「地理とは、地球上の理(ことわり)である」。6万部突破のベストセラー、『経済は地理から学べ!』の著者でもあります。
(本記事は2017年3月11日付け記事を再構成したものです)
美味しいワインの秘密を「地理」から読み解く
皆さん、ワインはお好きですか? 私はドイツの白ワインが好きです。
ワインを生産するためには、年平均気温10~20℃が最適だといわれています。北緯30~50度、南緯20~40度はワインベルトと呼ばれていて、ワインの生産地として知られています。
原料となるブドウはどこで生産されるのでしょうか?
ブドウやオリーブ、オレンジ、レモン、コルクガシといった樹木作物は、ケッペンの気候区分でいう地中海性気候下での生産が盛んです。
地中海性気候とは、夏季は高温乾燥、冬季は温暖湿潤を示す気候のことです。冒頭の図を見てください。ヨーロッパ地中海周辺で展開する気候のため、地中海性気候といわれます。温帯気候に属する気候です。
この気候下で発達した農業が二圃式(にほしき)農業です。これは圃場(農場)を2分割する方式の農業で、冬作地と休閑地に2分割します。
冬は温暖で降水がみられますので、農耕が可能です。ここでは小麦を作っています。冬に育つ小麦なので、冬小麦(秋に種をまき越冬させ、初夏に収穫する小麦)です。
しかし、夏は基本的に少雨となることから農業が困難です。冬の間の農耕で、土壌中の水分が少なくなっていることから、水分供給のために休閑させなければなりません。
最初のうちはただ休ませていましたが、そのうち羊や山羊を放牧するようになります。羊や山羊は粗食に耐える家畜で、エサを多く必要としません。植生(しょくせい)があまりみられない乾燥地において重宝します。
ですから、乾燥地域に多く居住しているイスラム教徒は羊をよく食べています。
家畜を放牧すれば糞尿を垂れますので、これが地力の回復を促してくれます。こうして、秋の播種期を待つのです。その後、気温が上がる夏の太陽の恵みを活かし、樹木作物を育てるようになりました。