ネット上で実名を晒すことについて、フェイスブックのCEOマーク・ザッカーバーグはこう主張する。「実名だと気を使っちゃうとか、どうでもいいんじゃない? そんなこと気にせず自分をさらけ出しちゃえばラクだよ」――そうすれば、社会とつながることができるよ、と。しかし、著名人ではない個人が実名でソーシャルメディアに参加することにはさまざまなリスクや問題があることは、この連載の第3回でも指摘したとおりだ。
では、個人が匿名性を維持したまま社会につながるにはどうしたらよいのだろうか? 今回はこの点について考えていきたい。

【第1回】「ソーシャルメディアは死んだ」と言われる日は近い…?」から読む
【第2回】「ソーシャルメディアとサクラの微妙な関係」から読む

【第3回】「「2ちゃんねる」は永遠に不滅?!」から読む
【第4回】「ソーシャルメディアが浮き彫りにする個人の孤独」から読む
【第5回】「ソーシャルメディアが無縁社会を生み出す?」から読む

「ジャイアン」と「バージン」と「ヌーディスト」

武田隆(たけだ・たかし)エイベック研究所 代表取締役。日本大学芸術学部にてメディア美学者 武邑光裕に師事。「日本の伝統芸術とマルチメディアの融合」を学ぶ。1996年、学生ベンチャーとして起業。企業のウェブサイト構築のコンサルテーションを足掛かりに事業を拡大し、多数の受賞を得るも、企業と顧客の距離が縮まらないインターネットサービスの限界に悩む。クライアント企業各社との数年に及ぶ共同実験を経て、ソーシャルメディアをマーケティングに活用する「企業コミュニティ」の理論と手法を独自開発。その理論の中核には「心あたたまる関係と経済効果の融合」がある。システムの完成に合わせ、2000年同研究所を株式会社化。その後、自らの足で2000社の企業を回る。花王、カゴメ、ベネッセなど業界トップの会社から評価を得て、累計300社にシステムを導入。当ドメインでは日本最大。コミュニティには60万人を超える消費者が集まる。1974年1月生まれ。海浜幕張出身。

「フェイスブックはすごい」と語る人の大多数が、「実名のソーシャルメディアはすごい」といいます。このような実名擁護は今に始まったことではありません。この連載で整理してきたことを簡単におさらいしてみることにします。

 いままで実名擁護者は大きく2つの種類に分けられました。一方は、ネットワーク経験に乏しく、耳年増になっているけれど、実体はよく知らないというケースで、なんとなくイメージで匿名は気持ち悪いし、怖いと言っているちょっと乙女な「バージン」と呼ばれるグループです。

 もう一方には、著名人や有名人の先生に多いケースで、匿名では攻撃されても仕返しできないから、「文句を言いたければ実名でせよ」というグループがあります。

 自分の知名度を使って稼いでいるこのような先生であれば、それは有名税ということで収まりもつきますが、そうでない人を捕まえて、「誹謗中傷されたくないから、みんな実名にすればよい」というのは、その強引な姿勢から「ジャイアン」と呼ばれても仕方がありません。

 今までの実名擁護者というのは、この「バージン」と「ジャイアン」しかいませんでした。しかし、このフェイスブックブームの喧噪によくよく耳をすませてみると、まったく新しい主張があることに気づきます。その衝撃的な主張を名前に込めて、ここでは彼らのことを「ヌーディスト」と呼ぶことにします。

 このヌーディストによる新説の主旨は、「みんなさ、実名だと言えないこととか、気を使っちゃうとか、そんなこと、どうでもいいんじゃない? ほんと、みんな集まってさらけ出しちゃえばいいんじゃない? すごく気持ちいいよ。こっちにおいでよ。君も脱ぎなよ」というような台詞に要約できます。脱いだあとに得られるものは、社会とのつながりだと彼らは主張します。つまり、「実名は社会とつながる」というものです。

 この新説のボスは、フェイスブックの総帥、マーク・ザッカーバーグです。フェイスブックが「カルト」と呼ばれる所以もここにあります。