私が中国のスマホを操作しつつ、日本の編集者さんに説明をすれば「さすがです。ぜひご執筆を!」となるだろう。冷静な判断とワールドワイドな見聞に支えられた高い見識、

 (私ってば、もしかして国際ジャーナリストってやつ?)

 にやけつつ、トイレに入った。

 服は、厳寒の北京とまだ秋の東京に合わせて薄いダウンとコートの二枚重ねである。なんか、プロって感じ?と、コートをフックに掛けたその瞬間、

 ボッチャーン!

 ポケットからスマホが、便器の中にすべり落ちた。しかもその衝撃で、フタが外れ中身がどっぷり水に使っている。

 慌てて水中から取り出した。が、スマホはどう見ても死んでいる。ていうか、これを日本の編集部で出すと、国際ジャーナリストどころか、“コ臭いジャーナリスト”ではないか。

 それにさっきスマホでピッ、で払ったデポジットはどうなるんだ。

 中国、進んでますのよ、の先進気取りが、突然「え、保証金を取るなら、ハンコのついた紙をちゃんとよこさんかい!」、という昭和の大阪のおっちゃんになる。

 しかもつい先ほど、仲良しの中国人の友達から、「親が危篤なの、連絡して」という微信のメッセージを受け取ったばかり。

知らない電話番号にはもう出ない中国人
スマホは完全に死んでますます焦る

 幸い、出発ロビーには、タッチパネル式の電話機があった。北京市の交通カードで電話できるようで飛びついたが、

 (電話番号がわからない……)

 パスポートの写真だけは万一を考えて日本のクラウドにアップしてあるが、すべての情報はスマホの中。