あらゆる業界がレッド・オーシャン化したからこそ
ブルー・オーシャン戦略が不可欠

ベンチャーキャピタリスト高宮慎一が語る、ブルー・オーシャンの3パターン高宮慎一
グロービス・キャピタル・パートナーズ(GCP)代表パートナー
GCPではインターネット領域の投資を担当。GCP参画前は、戦略コンサルティング会社アーサー・D・リトルにて、ITサービス企業に対する事業戦略、新規事業戦略、イノベーション戦略立案などを主導。東京大学経済学部卒(卒論特選論文受賞)、ハーバード大学MBA(二年次優秀賞)。
投資担当先には、アイスタイル(東証3660)、カヤック(東証3904)、ピクスタ(東証3416)、メルカリ(4385)、ナナピ(KDDIグループ入り)、ランサーズ、ビーバー、リブルー、ミラティブなどがある。

ムーギー:私は現在、このブルー・オーシャン戦略は、過去に比べて、より一層実行しやすくなっていると思うんです。インターネットはもちろん、IoTやブロックチェーンなど、業界の垣根を壊す際に、サポートになる技術がいろいろ出てきていますよね。

高宮:もう一つ、ブルー・オーシャンの必要性が高まっている理由があると思います。おそらく、現在は多くの業界が成熟していて、レッド・オーシャンであることが前提になっています。
 例えば20年前のインターネットが登場したばかりの世界では、「何をやっても新しい」という状況でした。アマゾンが「オンラインで本を売ること」を始めたのが、分かりやすい例です。そもそもインターネットで商品を売るなんてことが、世の中に存在してないから、何やってもブルー・オーシャンでした。

ムーギー:今は、ネットでモノを売っても、全然ブルー・オーシャンじゃない。

高宮:そう。
 ブルー・オーシャンというと、何もない荒野に、何かビジネスを生み出すのと、競争が激しいところで、競争軸をずらして、新しいビジネスを生み出すことがあると思います。新しいテクノロジーが出たての時は、何でもかんでも、更地に近いんですよ。「更地ブルー・オーシャン」ですね。
 けれども、今はインターネットが成熟化してきて、情報革命的な産業革命が一段落しているので、まっさらな更地が少なくなって、どこも混みあっている。
 そういう状況においては、おそらく、あらゆる企業が、軸をずらして、新しいビジネスを生み出すタイプのブルー・オーシャンを追求せざるを得ないと思うんです。

ムーギー:例えば、後者はどういうイメージでしょうか。

高宮:インターネットが当たり前になったからこそ、例えば、リアルで店舗を持たない、ネットメインの生命保険会社も出てきましたよね。インターネットを使ってリアルを変える事例は数多くある。
 ネットを使って他の事業や、社会全体を変えるみたいな事例は、まだまだあると思います。そこはまさにブルー・オーシャン戦略を当てはめまくれる領域だと思いますね。

ムーギー一見するとレッド・オーシャンでも、競争の軸を変えれば、市場は創れますからね。

高宮:おそらく、ブルー・オーシャン戦略は、本当に競争が激しい前提の中での、セカンド・ベストな戦略だと思うんです。競合がいないところに入っていくのが一番おいしいに決まっている。けれども今は、どこへいっても競合がいるから、競争軸をずらして、新しく市場を定義することで、競争が緩やかな市場を創り出すんだと思うんですよね。

ムーギー:今成熟している業界の人こそ、ブルー・オーシャン戦略が必要ということですね。

高宮:一方で今後を考えると、ブルー・オーシャン戦略は成熟産業だけのものではないとも思います。
 まず、ブロックチェーンやIoT、AIなどの新しい技術が出てきた時には、そこには、まっさらな更地が広がっています。あえて既存のプレーヤーが陣取っているところに出て行かなくてもいい。技術がこれだけ登場してくると、まっさらな市場を創りにいく、更地ブルー・オーシャンのパターンは、今後一層、増えると思います。
 そして、更地に市場を創りにいく流れが一巡すると、今度はまた、混みあってきた市場の中で、どうやって競争軸をずらして、新しい事業機会を創るかが重要になってきます。その際にまた、軸をずらすブルー・オーシャン戦略の必要性は高まります。
 テクノロジーや産業のライフサイクル論とも、ブルー・オーシャン戦略は深く関わっているんじゃないかなと、個人的には思います。