「私は以前、エナジードリンクの消費財メーカーで働いたことがあります。海外に進出した際、私たちは新しい市場で人々の味覚や好みを把握するために、何百万ドルも使って市場調査をしたものです。いろいろ市場に投入しましたが、2回に1回は空振りに終わりました。失敗したら、あれこれ再編成して1年以内に再挑戦する方法を考えました。
 でもグレイズは、米国での発売開始にあたり、市場調査は一切行いませんでした。既存の製品ラインを運び込み、市場に投入しただけです。システムが自分で勝手に必要な調整を行ってくれることがわかっていましたから」

 グレイズ・チームはただダッシュボードの前に座って、ローンチ直後の商品の動きを見守った。数日後、スパイシー・バーベキュー風味の菓子が売上を伸ばし始め、チャツネ〔南アジア・西アジアを中心に使われているソースまたはペースト状調味料〕風味の製品が急降下した。

 グレイズはフォーカスグループ・インタビューも、電話調査も、ユーザー・インタビューも行わない。そもそも、ヒット商品を生もうとしているわけでもない。なぜか?顧客に提供するサービスに市場調査がすでに組み込まれているからだ。

 顧客の購買行動を逐一確認できるので、グレイズは3ヵ月か4ヵ月で米国での売れ行きに完全に歩調を合わせることができた。彼らは世界のどこにでも工場をオープンし、顧客の声を聞き、学習し、自らを最適化するプロセスをただちに開始することができる。

 サブスクライバーと一緒にサービスを設計し、利用状況や利用行動のデータとともにサービスの内容を知らせれば、顧客が本当に望むものを作ることができ、顧客ニーズに応じてそれを進化させることができる。Gメール・チームも、グレイズ・チームも、そのことを認識していた。

(本原稿は書籍『サブスクリプション』からの抜粋です)

〈バックナンバー〉
第1回 フォーチュン500に入り続けている企業の共通点とは?
第2回 急成長企業のビジネスモデルはここが違う
第3回 加速する自動車業界のサブスクリプション

第4回「空のウーバー」のすごいビジネスモデル
第5回 ソフトウェアの常識を塗り替えたGmailの開発哲学

ティエン・ツォ(Tien Tzuo)
Zuora創業者兼CEO
セールスフォース・ドットコムの創業期に入社し、CMO(最高マーケティング責任者)やCSO(最高戦略責任者)を歴任。同社での経験から「サブスクリプション・エコノミー」の到来をいち早く予見し、2007年にZuoraを創業しCEOに就任。Zuoraは、従来のプロダクト販売モデルからサブスクリプション・モデルへのビジネスモデル変革と収益向上を支援するSaaSプロバイダで、世界に1000社以上の顧客を持つ。2018年4月にニューヨーク証券取引所に上場。