トヨタ生産方式を形だけ導入しようとしても成功しない。うまく機能させるには、カイゼン哲学を共有し、不断の努力を続けなければならない。そして、その背景には、トヨタに脈々と受け継がれる労使間、社員間の徹底した対話文化がある。トヨタ労組の書記長や自動車総連の会長などの要職を長年務め、『トヨタの話し合い』を上梓した加藤裕治弁護士に、トヨタの現場の情熱や創意工夫の秘密を聞く。
トヨタが目標に掲げる
2つのキーワード
「トヨタが売上げや利益の数値目標を立てることはありません。これは、昔も今も変わりません」
トヨタの社員やOBでない人にこういう話をすると、ほとんどの人に「ええ~っ、本当ですか!」と返される。
会社は売上目標や利益目標を立て、目標を達成するための戦略や方策を考え、各部門、さらには一人ひとりの社員までブレイクダウンして、それぞれが何をすべきかを決める。これが世間一般の常識というもので、強い会社になればなるほど、高い目標を立て、達成のためにみんなが精一杯の努力をするものだ。
トヨタに入る前の私も、そう思っていた。
ところが入ってみると、そのような売上げ、台数、あるいは利益といった数値目標はなく、現場でも、事務・スタッフ部門でも「能率向上」「原価低減」という2つのキーワードで括られる行動目標があるのみだった。