能率向上も、原価低減も、数値目標化はできる。

 たとえば、能率向上は、これまでの基準時間をどれだけ縮められるかという目標値を掲げられるし、原価低減についても前期と比べてどれだけ低減させるかという目標を立てられる。

 実際、そうしている職場もある。しかし、それはあくまで自分たちで決める目標であり、会社の売上目標からトップダウン的に与えられる目標ではない。

なぜ「能率向上」と「原価低減」を
目標にしているのか?

 カイゼンの哲学を身につけたトヨタの社員たちは毎日毎日、「能率向上」と「原価低減」への強力な問題意識を持ちながら仕事に精を出している。

 多少は数値を意識するときもあるが、工場や事務所に「売上目標○○円必達!」などと威勢のよいスローガンをあちこちに掲げたり、ぶら下げたりすることはない。

 トヨタに入社してから何年かたつと、いつの間にか、数値目標を掲げないことが普通の企業行動だと思うようになり、そのことによって、自発的に「能率向上」や「原価低減」に向かって努力するようになっていく。

 もちろん、会社の売上げや利益、生産台数や販売台数などに関心がないわけではない。トヨタの決算数値は、たとえ「そんなもの知りたくない」と思っても、日本経済新聞等の一面で知らされるので、「経常利益が2兆円超えたか、すごいなあ」と驚いたり、喜んだり、残念がったりしてはいる。

 しかし、決算情報と今行っている自分の仕事との関連性は直接的にはない。自分の目の前の仕事を支配しているのは、数値ではなく、あくまでカイゼンなのである。