治療せずに様子を見るか
早めに手術をするべきか

――前立腺がんはすぐに治療せずに放置するという選択肢もあります。

 積極的な経過観察のことですね。がんの様子を検査で見続けて、スコアが上がったら「タイムリーな時期」なので治療をしましょうというものです。

「タイムリーな時期です。今です」と言って実際に手術なり治療しますね。じゃあ、みんなタイムリーだったのかといえば、そうではない。低リスクの人でも手術をすると、1割ぐらいの確率でT3(前立腺を覆う膜を越えて広がったがん)なんですよ。もう(前立腺の)外に出ていたりする。

 最初から外に出ていてもずっと同じような状態の人もいるでしょうし、さらに転移する人もいます。そのパーセンテージは低いんでしょうけど、リスクについては全部話をして決めてもらう。

――自分で判断してくださいと?

 最初から(前立腺の)外に出ているのかどうかは、誰にも分からない。そこまで画像の技術がまだ進んでいないですから。

 経過観察をした場合、9割の人はタイムリーな時期に治療を受けられる。でも、1割の人は(外に出ているのが)最初からだったのか、待ったからなのか分からない。それで納得できるのであれば「経過観察でいい」という言い方をします。

 9割の人は「なにもしないで様子を見る」でいい。でも1割に入っちゃったら後悔するのかどうか、それが判断基準です。こちら側から「絶対、大丈夫ですから」なんて言い方はできません。

 前立腺がんは画像で全ては見えない。そこにブレークスルーが起こり、非常に小さな多発しているがんのロケーションがしっかり分かって、悪性度も分かるようになれば、ターゲティングセラピーの時代になりますよね。

――それは薬でやるものですか。

 針を刺す凍結治療でもいいし、ラジオ波治療でもいいし、なんでもいいんですけど、要するにあるがんをちゃんと見てつぶすものです。

――そうなるとロボット支援手術が要らないケースが山のように増えていくのでしょうか。

 手術の領域では、ロボット支援手術がかなり画期的なので、次はちょっと想像しにくい。

――その次のブレークスルーが起こったときは、手術そのものが……。

 なくなる。

 ロボットが要らなくなるっていうのは、おそらく画像のブレークスルーによって全く別な治療法が確立されるときではないでしょうか。

――外科医として手術がなくなるのは本望ですか。

 ない方がいいですよね。針を刺してつぶせるなら、そっちの方がいいに違いない。

――腕を磨いて極めようとも、新たな技術によってガラッと変わる。取って代わられるのでしょうか?

 そうです。だって、開放手術のエキスパートだった先生方はすることがなくなってきていますよね。技術が変わってくれば、ロボットだってそのうち要らなくなっていくんだと思います。

よしおか・くにひこ/1962年生まれ。87年島根医科大学卒業。東京医科大学泌尿器科教授等を経て、2017年板橋中央総合病院ロボット手術センター長。特任副院長、泌尿器科診療部長も務める。
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