総合商社でキャリアカウンセリング室を立ち上げ、20年のキャリアコンサルティングの現場経験を持つ浅川正健氏が、今年10月に『企業内キャリアコンサルティング入門』(ダイヤモンド社刊)を上梓した。今回はある中間管理職の下で社員が退職したり、メンタルヘルス不調で出社できなくなったうえ、その中間管理職も思い悩んでいるという事例を紹介する。キャリアコンサルタントはどんな風に判断し、どのように対応したのか。
X部長(40代後半、男性、営業職)のもとでは、部下の若手社員がメンタルヘルスの不調などで出社できなくなったり、退職を決めたりするケースが頻発していました。中でも人柄が良く、業績も上げてきたFさん(20代後半、男性、営業職)が後輩の指導がうまくできず思い悩んでいる、と言います。
これから紹介するX部長の相談事例は、プライバシーに配慮してフィクション化しています。
X部長の主訴(本人がいちばん訴えていたこと)
「仕事のできる上司が、部下をつぶしたいなどと考えるはずがない。こうしたケースはどの部署でもあると思う。Fについて、あなたはどう判断するか?」
キャリアコンサルタントの見立て
Fさんに関する相談でしたが、実はX部長は、部下の問題はFさんに限ったことではなく、部署のカルチャーが変わらない限りいつまでも続くのではないかと考えているようでした。
キャリアコンサルティング方針
X部長からの依頼で、Fさんの部下育成・リーダーシップについて支援する役割を担うことにしました。一方で、本件の焦点は、X部長自身に向けて考えることにします。目の前の部下や組織から離れて、世の中でいま何が起こっているかに気づいてもらうことに注力します。
面談1回目
「Fの部署で問題があることは知っていると思うが、少し話を聴いてもらえるか?」とX部長が電話連絡ののち、来室。
X部長「最近の若い人は弱いんだろうか? 自分の若い頃はこんなに病気になったり、簡単に辞めようとしたりはしなかったと思うんだが」