――デジタルソリューションの顧客企業が、思い切ってデータを開示してくれるかどうかは日本がデジタル化の恩恵を受けられるかを左右しますね。日本のJRや電力会社はデータ提供に消極的だと聞きます。
錦織 なかなか開示されないです。
沖谷 しかし、英国の事例で成果を上げ、それを見せることで日本のインフラ企業もデータ開示に積極的になるでしょう。
東芝デジタル&コンサルティングで、横展開できそうな事例をもう一つ挙げます。世界最大手の自動車プレス部品メーカー、ゲスタンプ(本社はスペイン)さんの工場で、自動車のボディーの溶接がきちんと行われたかを見る検査を請け負いました。カメラとAEセンサーという超音波のセンサーから得たデータを人工知能(AI)で解析して溶接の不良を検出します。
実証で高精度で検知できることが分かったので、ドイツの旗艦工場で商用生産の一部のラインから検査システムを導入してもらうことになりました。ここを起点にして工場全体を最適化していきたい。ゲスタンプさんだけでも同じ溶接ラインが世界に70以上、工場は100以上あるのです。
――工場のデジタル化では、デンソーとも提携してきましたが進展していますか。
錦織 デンソー生産革新センターの加藤充生産技術部長(当時)には、東芝が構築したIoT基盤を導入してから「3カ月ほどのわずかな期間で、生産性を6%向上できた」という評価をいただきました。これからその生産性の改善率を20%まで高めたいです。
――工場のIoTでは日系企業だけでも日立、三菱電機、ファナックなどが、海外勢ではシーメンスなども注力しています。東芝の強みはどこにあるのですか。
東芝のファクトリーIoTは実は進んでいます。他社と競合したとこもありますが、お客様からは「東芝が一番いい」と、言われています。では何がいいかというと、やっぱり「東芝グループの総合力」なのですが、これは言ってしまうと日立とほぼ同じです。東芝も日立も顧客基盤を持っていて、インフラ事業をやっていて社内にも「ものづくり」がある。実は、ITのノウハウも両社はほぼ同じです。(製品や工場の)運用のテクノロジーと各業界のドメイン知識、ITノウハウを一つの会社で持っているのはかなりユニークで、日本では東芝と日立ぐらいです。
技術的な強みは3つあります。1つは、半導体技術です。例えば、自動運転を行うために、現場に近いエッジの半導体の中で、超高速に画像データを処理する技術に長けています。
もう1つはデジタルツインの技術です。徹底的にシミュレーションを行うために、データベース上のどこにどういうデータを置いておくと、芋づる式に欲しい情報を早く取り上げられるかのノウハウ、データベースの作り方に長けています。お客様が実証をやって、「東芝のデジタルツインが一番良い」と言ってもらっています。
デジタルツインにAIを絡めて、ソリューションを生み出す取り組みには自信がある。特にものづくりの分野では一番進んでいます。正直言って、いま困ってるのは、さばききれないほど引き合いが来ていることなのです。
――引く手あまただということは、条件面で有利に交渉できるようになっていますか。
錦織 もちろんです。2、3年前とは違う次元に来ています。
――その辺がたぶん世の中で理解されてない。
錦織 そうなんです。東芝が進んでないと思われる。だけど実際はこの2年間で先行してきている。
水面下でやってきたことが、やっと進み出したのです。お客様が東芝のデジタルソリューションを採用する最終判断のための「実証実験」に1年くらい掛かります。その期間を経て、ここ6カ月で商談獲得数がぐっと増えた。ここまで来ると、さらに案件が増えるのは割と早いんです。
沖谷 先ほど言った10社に加えて、東芝グループの3社の工場もデータを通じた効率化を始めています。これまでは半導体メモリを扱う東芝メモリ(米ファンドのベインキャピタルなどに売却された。現在の社名はキオクシア)の四日市工場だけでしたが他工場にも広がってきました。