紙おむつ市場ではアジアNo.1のシェアで、今やグローバル企業となったユニ・チャーム。テクノロジーの進化による戦いが世界規模で行われている日用品業界で、今どんなテクノロジーがイノベーションを起こすのか。高原豪久社長が考える「未来」とは。(聞き手/ダイヤモンド編集部 相馬留美)
ユニ・チャームには
「アート」が必要だ
――東南アジア市場で子供・大人用おむつで圧倒的なシェアを握り、今や売り上げの6割が海外向けです。現在力を入れているテクノロジーは何でしょうか。
テクノロジーには2種類あると私は考えています。サイエンス的なテクノロジーとエンジニアリング的なテクノロジーです。
経営の世界では、「ムーンショット的なイノベーションを目指す」とよくいわれます。古い例えですが、1960年代の米国の「アポロ計画」で説明しましょう。
アポロ11号は月に行ったわけですから、このムーンショットは、サイエンスの領域の計画だと思われがちです。でも、アポロ計画はエンジニアリングの集大成。そこで培われたテクノロジーを、探査機の帰還後にビジネスや国力の強化に生かすことの方が重要な目的でした。
わが社は61年に創業して50年以上たちますが、そのほとんどはエンジニアリングのテクノロジーの歴史です。ですからテクノロジーの成果は、コスト削減や、新しい機械や技術、資材の開発が中心。ですが、これからはエンジニアリングに加え、サイエンスのテクノロジーという2種類のイノベーションを組み合わせて考える必要があると思っています。
――組み合わせるとは?
例えば、95年に大人用おむつ「ライフリー」の「リハビリパンツ」という商品を発売しました。この名称は一つの提唱でした。
当時から少子高齢化が進むことは、統計上、見えていた未来でした。ですが、それまでの介護用失禁ケアの多くは、寝たきりの人たちに対処するものでした。そんな中で、この商品を出したことは、失禁は認識していてもそれ以上悪くならないよう、体の状態の維持を目指すという、社会的価値観の提唱でもありました。
ユニ・チャームの商品を世の中に浸透させるためには、エンジニアリングだけではなく、サイエンスあるいはアートの要素が必要だと常に思っています。
――エンジニアリングのテクノロジーだけでは駄目だと感じるようになったのはなぜですか。