改正相続法は2019年1月から順次施行され、2019年7月には一気にルールが変わった。もはや知らないでは済まされないのだ。2020年1月5日(日)まで全18回でお届けする特集「家族を困らせない相続」の第14回では、転ばぬ先のつえとして、主だった七つの改正ポイントを例とともに見ていく。(監修/弓家田良彦〈税理士法人弓家田・富山事務所代表社員〉)
改正相続法のポイントは七つ。その詳細をQ&A形式で見ていこう。
(1)配偶者居住権の創設(2020年4月スタート)
「居住権」と「所有権」の分離で妻が自宅に住み続けられる
Q 私は後妻なのですが、先妻の子から自宅を奪われないか心配です
A 妻が自宅に居住する権利が創設されたので心配要りません
特集第13回【相続法「2018年の大改正」、知らないと危ない“落とし穴”とは?】で登場した都内の会社員、高橋邦彦さん(仮名・59歳)を安堵させた「配偶者居住権」(2020年4月施行)を詳しく見ることから始めよう。この新制度は、相続法改正の「目玉商品」だ。
高橋さんのように先妻との子と後妻の間で“争族”が勃発した場合、従来の相続法ではどのような事態に陥っていたのか。
これまでは、夫名義の自宅に住む妻が遺産分割協議により自宅を所有できなかった場合、自宅にそのまま住み続けることができなくなったり、また所有できても預貯金が少なければ自宅を売却して先妻の子との遺産分割に充てたりするケースが少なくなかった。新制度では、そんな妻の権利を強化し、自宅と生活費の双方を確保することを狙う。
まず、配偶者居住権には、「配偶者短期居住権」と「配偶者居住権」という2種類が存在する。
前者の「配偶者短期居住権」は、「短期」という文言が入っているように、期限付きの居住権だ。特段の手続きは一切なく、夫(被相続人)が死亡した相続開始時から6カ月、もしくはその6カ月を超えても遺産分割が確定(他の相続人が自宅を相続)するまで住み続けることができる権利だ。つまり、最低6カ月は自宅から退去させられることはなくなり、妻はその間に転居先を探すことができるようになった。
続いて、図を基に、より注目度の高い長期の居住権である、後者の「配偶者居住権」の説明に移ろう。