アイシンが後発メーカーに勝る
「譲ってはいけない一線」を知っていること

――電気自動車(EV)大国の中国において、スタートアップが開発したEVでリコールなど品質問題が頻発しています。どう見ていますか。

 EVは簡単にできそうに見えるし、実際にできるんだけど、一番怖いのはバッテリーですね。(バッテリーの主原料である)リチウムは燃える性質を持っていますから。インターネットでもEVが燃えている映像を見ますよね。

 モーター、インバーターの不具合でもリコールが発生します。アイシンはトヨタの初代のハイブリッド車(HV)から、デンソーといっしょに勉強代を払いながら実績を積んできました。EVは始まったばかりですが、(EVの駆動モジュールで、今後需要が拡大すると見られる)e-アクスル(モーターとインバーター、ギアボックスを一体化したもの)は実はすでにHVの四輪駆動の後輪に使っていて、知見を持っています。

 これまで合計で、電動車370万台、駆動用モーターでは700万個の適合をやってきたことは大きな財産です。

 非難するわけじゃありませんが、その経験がないメーカーは、バッテリーに求められる安全基準を満たしているか、といったことが分からないかもしれません。EVを安くするためのコスト削減において、削っていいところと、安全上、「譲ってはいけない一線」があるのです。

 (アイシン精機にとっての最大顧客である)トヨタが求める品質と、他の自動車メーカーの品質に差があった場合に、どこまで譲っていいのか見極める知見が重要になります。

――EVのスタートアップは、パソコンのように製造実績がある会社に生産を委託するようになるかもしれませんね。
 
 だから部品単品ではなくシステムでの発注が増えると見ているのです。

 そのときに、適合をやった経験があるかどうかが大きい意味を持つのです。そこがアイシンと日本電産との大きな差です。アイシンはトヨタと適合をやってきて、自動車のことを知っている。そこは(日本電産などの後発のサプライヤーとの戦いにおいて)絶対に有利に使わないといけません。

――ハイエンドなEVだけでなく、安価なEVに使う自動車部品の売り込みにおいても、適合の経験が役に立つ。その結果、競合に負けない自信があるということですか。

 そう思います。そういうところで差を付けたい。(価格だけでなく)総合力で勝負する必要があると考えています。