『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』の著者ヤニス・バルファキス元ギリシャ財務相による連載。今回のテーマは、新型コロナウイルスの感染が急拡大する欧州の緊急経済対策です。日本人は欧米の取り組みを称賛しがちですが、ドイツを筆頭にユーログループは危機の本質を見誤っており、今後取られる対策は「水鉄砲」程度だろうと筆者は冷評します。
ユーロ圏各国の財務大臣が集まるユーログループは、新型コロナウイルス(COVID-19)の蔓延がもたらすリセッション効果に対し、マクロ経済的に意義の大きい協調的な財政対応を取りまとめようと苦心している。
だが結局のところ、合意された政策が的外れで腰が引けていることを隠蔽するために、人目を引く数字を誇らしげに喧伝するだけに終わるのではないかと筆者は危惧している。
そう思わせる最初の材料は、ドイツ政府が最近発表した、民間セクターに対する財政支援措置だ。国際メディアはその規模を5500億ユーロ(6000億ドル)の「バズーカ」と伝えているが、詳細に見ていけば、たかだか「水鉄砲」程度であるように思われる。
ドイツの支援措置の中身は納税猶予と大規模な融資であり、危機の本質を深刻に見誤っていることを露呈している。そしてそれは、10年前のユーロ危機を悪化させた誤解と同じものなのだ。
当時と同様、現在も、企業・家計が直面しているのは流動性不足ではなく、支払い能力の不足である。危機を食い止めるためには、各国政府には思い切った財政拡大を伴う「全力投球」が求められる。だがドイツ政府の支援措置は、まさにそこから逃げようとしているのだ。
ドイツより深刻な経済不振に悩む各国(例えばイタリアやギリシャ)の財務大臣は、当然ながら、必要な財政拡大を推進しようと試みるだろう。だが彼らの努力は、ドイツ財務相と、ユーログループ内の彼の忠実な支持者による頑迷な反対に直面する。
じきに「南の連中」は戦いを諦め、またもや財政的には取るに足りないユーログループによる対策におとなしく同意することになるが、迫り来るリセッションは、そのような対策など一気に押しつぶしてしまうだろう。
なぜそこまで確信できるのか。