デカップリングはないが
供給網は分岐していく

 コロナ禍を受け、米中対立が深まっているのは知られている通り。5月中旬に米国は、ファーウェイに対する制裁策を追加し、米国製の製造設備を使って自社設計の半導体を作れないようにした。

 この「攻撃」と同時に、自国にとって重要な製品や技術をなるべく自国内か中国以外の信頼できる国・企業から調達するサプライチェーンの「防御」も行なっている。半導体受託製造の世界最大手、台湾TSMC(台湾積体電路製造)が米国に新工場を造ることになったのも、この一環だ。

 そしてことハイテク産業においては、サプライチェーンの最重要論点は半導体だ。AIであれ、次世代通信規格(5G)であれ、半導体なしには実現しない。さらに半導体のサプライチェーン上、重要な企業は少数に限られている。TSMCやサムスン電子、東京エレクトロン、オランダ・ASMLといった企業がそれらであり、その中でも重要な1社がソニーだ。イメージセンサーの市場の半分はソニーが占めており、技術の水準も前述のように高い。

 こういった半導体の重要企業に対して米国政府が、中国のサプライチェーンから距離を置き、同時に米国の産業・市場への関与を深めるように求める可能性は常に存在している。特に今年11月の米国大統領選挙に向けては、トランプ氏は有権者に受けのいい中国たたきや安易な産業政策を相次いで打ち出すだろう。

 ハイテク産業のサプライチェーンにおいては、中国の役割は決して無視できない。巷間言われるような、世界が米中を軸に二つの経済圏に分かれる「デカップリング」はおそらくない。起こるのはサプライチェーンの「分岐」であり、その分かれ道で個々の企業に極めて難しい経営判断が求められる。

 5月中旬のファーウェイへの追加制裁を受け、ソニーの法務部門のスタッフは連日のように、経済産業省や法律事務所などの貿易管理に精通した向きに「ファーウェイとの取引を続けて問題はないか」と問い合わせているという。米中間の対立が日々エスカレートする中、ソニーの判断の難しさも増している。

Key Visual by Noriyo Shinoda, Graphic by Kaoru Kurata