チョコレート市場は
10年で急成長
今や世界で3位のチョコレート消費国となった日本の影響も大きい(本特集#7『チョコレート業界の闇、「カカオ農家は食べたことがない」定説の裏側』参照)。国内のチョコレート市場は10年度の4180億円以降、急成長。17年度には5500億円まで規模が拡大した。
18年度は5370億円といったんは下降したが、4月10日公表の最新データで19年度は5630億円に達したことが判明(全日本菓子協会)。チョコレート市場が成長基調であることを裏付けた。「高カカオ」で健康を訴求する商品に至っては、この10年で1144.4%の拡大をしているのだ。
この勢いで20年のバレンタインデー商戦への期待が高まったが、今年はコロナ禍が直撃。1月16日の国内初の感染症例の報道後、世間はバレンタインどころではなくなる。2月14日前週のチョコレートの販売金額は前年同期比で88.8%に落ち込み、低迷は3月いっぱいまで続いた。
ところが、4月に入るとチョコレートの販売金額は前年を上回り始める。
チョコレートの上流では
何が起きているのか
理由は4月7日に発令された緊急事態宣言による「巣ごもり需要」である。中でも伸長が顕著なのは、ファミリーサイズの「徳用チョコレート」と「板チョコレート」、そして「洋酒チョコレート」のカテゴリー。
「巣ごもり生活が続くなか、お菓子づくりのアイテムとして人気が高まっています。『明治ミルクチョコレート』の4月の売り上げは前年同月比約150%と好調です」(明治 広報部の大出祥弘氏)
小売店ではここ数年、板チョコレートの消費は下降傾向だったが、家庭内で「手づくりチョコ」や、テレビ番組等で取り上げられて注目の集まる「スモア」などに活用できることがその理由のようだ。洋酒チョコレートに関しては、近年の人気上昇に合わせて冬場に限定販売された商品の在庫一掃の面が強いといえる。
「チョコレート経済」の下流ともいえる、日本での消費という点ではひとまず、コロナ禍という困難を乗り切った感がある。しかし、「上流」である生産地や流通に目を向ければ事情は異なる。
カカオ生産者は、生産技術や価格形成のメカニズム、労働環境など多くの問題を長年抱えてきた。昨今では異常気象がそこに追い打ちをかけている。ついに20年2月、生産者からの要望によりカカオの価格が上昇、約3年ぶりの高値圏となった。今後、菓子メーカーなどがチョコレート製品を値上げする可能性が一瞬強まったかに見えた。
ところが、さらにコロナ禍が広がると国際的には需要減が起こると想定されたのか価格は下落、まさしくジェットコースターのような乱高下が続いている。
生産者の事情や実需以外にも価格を揺さぶる要因がある。投資マネーの存在だ。
カカオの国際価格はロンドンとニューヨークの先物市場で決まっている。カカオ豆を卸す商社やチョコレートを製造・販売するメーカーだけでなく、利益を得たい投資家の思惑に左右されるのだ。コロナ禍で投資の世界にも激変が起こっているだけに、マネーの矛先が次にどこへ向かうかは分からない。世界的に高まるチョコレート需要を支える仕組みは意外ともろく、一つつまずくとチョコレートを取り巻く社会システムが連鎖的に崩壊しかねないのである。
Key Visual by Noriyo Shinoda, Graphic by Tatsuya Hanamoto