通常、テレワークの導入に際しては、導入にあたって感じている不安や懸念をトライアルなどで払拭してからでないと導入に至りません。しかし今回は非常事態だったため、導入にあたっての不安や懸念をいったん、脇に置いたままテレワークをスタートさせました。だからこそ、実施後にさまざまな課題が顕在化し、本当にこのままテレワークを続けていいのかという気持ちになっているのです。
では、そのうえでどのように経営層を説得していけばよいのでしょうか。これから挙げる2つのことを行っていただきたいと思います。
1つ目は、企業ごとにテレワークと通常勤務の良いバランス、活用方法を模索することです。できることなら、テレワークを社員個人が最も力を発揮できる環境のオプションといつでも活用していけるよう検討してほしいですが、それが難しいならば、テレワークがなければ働くことが難しい人を救う観点から検討するなど、幅を持たせてテレワークの実現を模索してください。
日本企業の人事部門は、概して労働組合の関係性などから、制度や施策を一斉・一律に適用することを重視してきました。よって、一部の社員しか利用・活用できない制度や施策は、本実施を躊躇する傾向にあります。今回は多くの人がテレワークを体験しており、そのメリットを実感しています。ですから、なんとか完全になくすことだけは避けていただきたいのです。
そのためにも、同時にぜひ行っていただきたいのが、2つ目として、テレワークで生まれた果実や成功したチャレンジ、つまり「テレワークによる自社での成果」を経営層に伝えることです。
私のこれまでの経験上、テレワーク導入に不安に感じている経営層に「大丈夫」といくらメリットを強調し、言葉で説得しても、「イエス」とは言いません。そんなときに効果的なのが、もたらされた具体的な成果を経営陣に伝えることです。
その際、事業視点と社員視点の両方を示すことが大事です。テレワーク下でもつつがなく業務ができていて、問題が起きていないこと。課題があったとしても無事に解決できたこと。そして、社員の会社への感謝の気持ちの向上や心身の健康など、テレワーク下だからこそ、こんな素晴らしい成果や変化がもたらされたことを、ぜひ伝えてください。
私はそうした活動を「自社での成果を差し出す」と呼んでいます。例えば、テレワークによって家族との時間が増えて、会社への愛着が持った社員が増えたなど、小さい部署での話でも構いません。自社での事例を集めて、改めてまとめるといいでしょう。
仮に、緊急事態宣言下でのテレワーク実施実績が、社内を動かす説得力に乏しいとお考えの場合は、手間はかかりますが、改めてトライアルを行うのも一考です。
こうして自社での成果を目の前に示すことができれば、テレワーク推進の一助になるはずです。