国策として「主力電源化」を目指す洋上風力発電に米中貿易摩擦の余波が押し寄せる。そんな中、政府主導により、発電施設に使う部品を国産化する構想が議論されている。ここで生産拠点として密かに大本命になっているのが、三菱重工業の「ある生産拠点」だ。特集『洋上風力会戦 グリーンエネルギー新世紀』(全6回)の#4では、国産化構想に至る経緯とその中身を明らかにする。(ダイヤモンド編集部 堀内 亮)
洋上風力発電の海域調査に来た中国船が
中国に引き返した裏事情
複数の洋上風力発電プロジェクトが動く秋田県沖から南西に向かって約200キロメートル先にある新潟県の新潟港に2019年4月、中国船籍の海洋調査船が入港した。
再生可能エネルギー専業会社であるレノバが、秋田県由利本荘市沖に計画する洋上風力発電プロジェクトで海底の地質などのボーリング調査を行うために、招いたのだ。
しかし、その海洋調査船が、秋田の海に向かうことはついになかった。海域調査を行うことなく、中国へ引き返したのである。
当時、日本政府が秋田県で地上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の配備を計画していた。それもあって、調査を行わずに帰るという中国船籍の海洋調査船の不可解な動きは、「日本政府の関与があったのではないか」などといったさまざまな臆測を呼んだ。
当のレノバは「当社の事業検討上の判断により、一部調査の延期を決めた」と理由を説明し、日本政府からの要請や指示を否定している。
その後、外国船籍による海洋調査を行う場合は、調査開始の3カ月前までに関係省庁などへ届け出る運用に変わった。
この運用変更について、ある大手電力会社幹部は「中国の海洋調査船が秋田の海を調べようとしたレノバの件があり、安全保障に神経を尖らせる首相官邸の意向があった」と解説する。
この件を主導したのは、安倍晋三首相の肝いりで創設した国家安全保障局(NSS)だった。「NSSが今、最も目を光らせているのが洋上風力発電」と政府の動向に詳しいエネルギー業界関係者は、声を潜める。
NSSは今年4月、「経済班」を発足した。NSS経済班は洋上風力発電施設で使う部品の生産にまで、首を突っ込んでいる。