「いやいや、不妊の原因は卵子の老化でしょ?うちは妻が20代だから大丈夫」――。

 一昔前は、これが常識であるかのように語られていた。

 確かに、先天的な要因がなくても、女性が加齢とともに妊娠しにくくなるのは医学的に証明されている。女性の卵子は、すでに胎児の頃に作られ、生まれてからは新たに作られることはない。つまり、卵子の年齢=本人の年齢なのである。

 しかも、現在の医学では卵子の質を上げる、つまり若返らせる治療はない。人間が若返ることができないのと同様に、加齢にあらがって女性の妊娠力を上げることはできないのだ。

 しかし、最近の知見では、男性も加齢による不妊への影響が指摘され始めている。それを示したのが下図だ。

 高齢になればなるほど、精子の数や運動率が下がっており、妊娠力が衰えているのが分かる。「男は女と違って幾つになっても子づくりできる」わけでは決してない。

 とはいえ、女性の卵子とは異なり、男性の精子は精巣という器官で、常に新たに作り続けられ、古いものと入れ替わっている。

 本特集#1『「卵子の若返り」にだまされるな!不妊治療で本当に信頼できる施設選び』では、卵子の若返りや質の向上をうたう施設は怪しいと述べたが、加齢による影響は多少あれど、精子の質を上げることは、医学的に可能であるといえよう。

 精子をつくる(造精)機能の問題点を探り、それを取り除くことで“精子力アップ”を図る、それが男性不妊の治療目的なのである。

精液検査で精子力が丸分かり
無精子症にも手だてはある

 男性不妊の治療は、何をおいてもまず「精液検査」なしには始まらない。

 検査の判定方法はWHO(世界保健機関)の基準値が採用されている。主な検査項目が下表だ。

 専門医が重要視するのは、精子の数や運動率、奇形の精子の割合などを示す、上表の(2)(3)(4)(5)(表内は丸囲み数字。以下同)。「これらのファクターの異常が、男性不妊の8割超を占める」(湯村准教授)。

 冒頭のSさんの場合、(5)の「正常精子形態率」が1%と、正常値よりも低かったため、奇形精子症との診断だった。

 (2)(3)(4)(5)の数値が低いと、造精機能に何らかの原因で障害が起きている可能性が高い。湯村准教授によると「造精機能の障害を招く原因は不明なことも多いが、男性不妊患者の約3割に見られる『精索静脈瘤』は薬や手術によって治療が可能」という。

 前述したように精子は、精巣という器官でつくられる。その精巣内にある血管(静脈)の血液が逆流して、こぶのようなものができた状態が、精索静脈瘤だ。精巣内の温度の上昇や低酸素環境を招き、造精機能に徐々にダメージを与えていく。

 時間がたてばたつほど造精機能の障害は進むため「1人目は自然妊娠したのに、2人目はなかなか授からないという『2人目不妊』は、精索静脈瘤が隠れているケースが多い」(湯村准教授)。

 精索静脈瘤の手術は、術式や麻酔のかけ方、日帰りか入院かなどによって、公的保険が適用される場合と、自由診療で行われる場合がある。保険適用なら、患者の自己負担額は15万円前後だ。

 精索静脈瘤など、造精機能の障害となっている原因が見つからない患者に対しては、漢方薬やビタミン剤などによる薬物療法を行う。

 原因不明の男性不妊に対しては、これまで医師個人の経験則で薬やサプリメントを処方していたケースが多かったが「薬物療法の効果に対するエビデンス(科学的根拠)が少しずつ集積されつつあり、どの施設でもある程度は同じ治療を受けることができるようになってきている」(湯村准教授)。