PPIについてはこれまでにも、骨折や消化管感染症、腎疾患、胃がんを増やす可能性が指摘されてきた。今回、中山大学(中国)のJinqiu Yuan氏らは、PPIと2型糖尿病との関連の有無を、米国の医療従事者対象に行われている3件の前向きコホート研究(NHS、NHS II、HPFS)のデータを統合して検討した。解析対象は、ベースライン時に糖尿病のない20万4,689人。
212万7,471人年の追跡中に、1万105人の糖尿病発症が記録されていた。年齢や性別、体重、身体活動などの生活習慣、および高血圧などの併存疾患といった、糖尿病発症リスクに関連する因子で調整後に、PPI服用者と非服用者の糖尿病発症リスクを比較した。
その結果、PPI服用者は非服用者よりも糖尿病発症リスクが24%有意に高かった〔ハザード比(HR)1.24(95%信頼区間1.17~1.31)〕。またPPI服用期間が長いほど糖尿病発症リスクが高いことが分かった。具体的には、服用期間が2年未満ではHR1.05(同0.93~1.19)であり非有意なのに対し、2年以上ではHR1.26(同1.18~1.35)と有意に高リスクであることが認められた。
この結果からYuan氏らは、「PPIの服用期間が長期に及ぶ場合、2型糖尿病のリスク増大に関連する可能性が高い」と述べている。その機序について、PPI服用によって腸内細菌叢バランスが変化することによる影響や、糖尿病のリスク因子である体重増加を招く可能性などを考察している。
なお、本研究からはこのほかに、普通体重で血圧が正常な人において、PPIによる糖尿病発症リスクがより大きく上昇すること、H2ブロッカーという別のタイプの胃酸分泌抑制薬でもリスク上昇傾向が見られること、PPI服用中止後の時間経過とともにリスクが低下していくことも明らかになった。
この論文を査読した米ノースウェル・ヘルスの消化器専門医であるDavid Bernstein氏は、「PPIが市場に現れたとき、その切れ味の良さから“奇跡の薬”と評価された。しかしPPI長期使用に関連する副作用のリストが徐々に増えてきている」と解説。糖尿病リスクへの対策として、PPI使用が2年以上になった場合は糖代謝を定期的に確認することが合理的であるとし、「スクリーニングの適切な頻度を明らかにするため、さらなる研究が必要」と述べている。
一方、米レノックス・ヒル病院の消化器専門医、Arun Swaminath氏は、本研究にはPPIの服用歴が参加者本人の記憶に基づくものであるなどの限界点があることを指摘。その上で、「医師はPPIを長期処方している患者について、引き続きその処方が必要か、用量を減らすことができないかを常に検討すべき」と語っている。また患者に対しては、「薬の効果とリスクについて医師と話し合ってほしい」とアドバイスしている。(HealthDay News 2020年10月2日)
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