私が松田聖子さんに惹かれたのは、彼女の振る舞いに、CAに対する気づかいが感じられたからです。

 そのひとつが、お礼のしかたでした。私がお茶をお出しした際、彼女は、となりの席の方とお話をしていたにもかかわらず、可能なかぎり上体を私のほうに向け、私としっかりと目を合わせ、笑顔で「ありがとうございます」とお礼をしてくださいました。

 それも一度ではありません。フライト中、何度も同じようにおじぎをしてくださいました。そして、なんと飛行機を降りるときにも、「おいしいお茶をありがとうございました」とお礼を述べてくださったのです。

 松田聖子さんの振る舞いに、本当に、一瞬で心をつかまれたのを、覚えています。

 たとえば、ソウル・ミュージックの神様と謳われた、故ジェームス・ブラウンさん。

 当時、まだCAの仕事に慣れず、手際が悪かった私。私がミスをして、先輩CAから注意を受けたことに、ジェームス・ブラウンさんは気づいていたのでしょう。

 彼は私を呼んで「ニューヨークタイムズ紙」を広げながら、こう言って笑いました。

「この新聞に出ているこの男性、なにをかくそう、実は僕なんだよ(笑)。どう? びっくりした?」

 彼は「あのCAは、先輩に怒られたのではないか」と察し、私のことを「元気づけたい」と思ってくださったのだと思います。しかも飛行機を降りるとき、「よかったら、ライブを見に来て!」と言って、私をライブに招待してくださったのです。

 彼のやさしい笑顔とあたたかい言葉に、私は「とても救われた気分」になり、一瞬で彼のファンになってしまいました。

 私は、松田聖子さんとジェームス・ブラウンさんが「有名人だから」という理由で、「もう一度会いたい」と思ったわけではありません。

 当時は「とても良い人だな」と好感を持ったわけですが、「CS(お客様満足)向上コンサルタント」となった、いまの私には、お2人の魅力の意味がわかります。

 お2人が多くのファンに慕われているのは、「相手がどう思うか」「なにをすれば相手が喜んでくれるのか」を察する「相手を気づかう心」があり、それを言葉と行動に込める習慣を持っているからなのです。

 そんな人は、ほぼ100%に近い確率で、どんな人からも好かれます。ですが、その気づかいの習慣を持っている人は、わずかに「1%」でしょう。そして、やろうと思えばだれでも実行できる、たった「1%」の習慣です。

 私は、その「1%の習慣」に惹かれました。

 500万人以上のお客様にお会いして、わかったことがあります。それは、「マニュアル通りの言葉や行動では、相手の心には届かない」という事実です。

 このお2人が私の「感情」を動かしたのは、私へのやさしさが「うわべを飾ったものではなかったから」でしょう。お2人の振る舞いは、とても自然でした。

 自然に、「私の存在」を認めてくださったのです。