日本のデジタル化で本当に必要なこととは何か?

――今、日本では「デジタル庁」を作って、さまざまな部分でデジタル化を進めようとしています。その動きについては、西さんはどう考えていますか?

 トップダウンの政策としては、すごくいいと思います。

 ただ、これはデジタル化とか、インターネットとか、そういう部分が問題の本質ではありません。もちろんデジタル化は大切ですけど、本来は「政府のいろんな手続きを効率よくする」「時間がかからないようにする」という制度設計の話です。

――単にデジタル化だけを進めようとしても、制度設計そのものを変えないとうまくいかない、ということですね。

 そう。非効率的な業務プロセスを温存したままであれば、デジタル化したってたいした効果は生まれません。だけど、これはそう簡単なことじゃないと思います。さまざまな抵抗があるでしょうから。これから何回も失敗して、何回も責任者がクビになりながら、少しずつよくなっていくんじゃないですか。僕はそう思って見ています。

コロナ禍が「日本の製造業」を復活させるチャンスでもある理由

 それと、絶対に忘れてはならないのは、デジタル化を進めることによって、「日本国民の生活の何がよくなるのか」という根本をはっきり見据えることですね。ここが“いい加減”だと、何をやってもダメですから。

――もう少し具体的に教えてください。

 デジタル化、デジタル庁の話はいろいろやってますけど、「ここがよくなる」ってことをはっきり言い切っている人はいません。手続きの効率がよくなるとか、そういう話はありますが、行政効率がよくなることと「日本国民の生活のよくなる」ことは、必ずしも同じとは言い切れませんよ。ここの部分について、誰もはっきりと語れていないように思います。

「世界に遅れを取らないためにやる」と言う人もいて、それはそうだという気もするけれど、じゃ、世界に遅れを取ったら、国民がどう不幸になるのか。そこまで語れてないんじゃないですかね。

「情報化、デジタル化の本当の理由は何なの?」ということをはっきりと説明できないとまずいと思います。これ、ものすごくお金が動く話ですからね。ただ単に、効率化、情報化、デジタル化したら、国民が幸せになるなんて、世の中はそんなに簡単じゃないのではありませんか?

 これをやることによって、国民の、どこが、どんなふうに幸せになるのか。そんな一番大事なところが置き去りにされないようにしないといけないと思っています。そこを徹底的に議論する必要があると思うし、「国民の幸せ」という原点を議員も役所も企業も学界も忘れずにやっていくことが大事だと思いますね。

コロナ禍が「日本の製造業」を復活させるチャンスでもある理由西 和彦(にし・かずひこ)
株式会社アスキー創業者
東京大学大学院工学系研究科IOTメディアラボラトリー ディレクター
1956年神戸市生まれ。早稲田大学理工学部中退。在学中の1977年にアスキー出版を設立。ビル・ゲイツ氏と意気投合して草創期のマイクロソフトに参画し、ボードメンバー兼技術担当副社長としてパソコン開発に活躍。しかし、半導体開発の是非などをめぐってビル・ゲイツ氏と対立、マイクロソフトを退社。帰国してアスキーの資料室専任「窓際」副社長となる。1987年、アスキー社長に就任。当時、史上最年少でアスキーを上場させる。しかし、資金難などの問題に直面。CSK創業者大川功氏の知遇を得、CSK・セガの出資を仰ぐとともに、アスキーはCSKの関連会社となる。その後、アスキー社長を退任し、CSK・セガの会長・社長秘書役を務めた。2002年、大川氏死去後、すべてのCSK・セガの役職から退任する。その後、米国マサチューセッツ工科大学メディアラボ客員教授や国連大学高等研究所副所長、尚美学園大学芸術情報学部教授等を務め、現在、須磨学園学園長、東京大学大学院工学系研究科IOTメディアラボラトリー ディレクターを務める。工学院大学大学院情報学専攻 博士(情報学)。

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