「逃げちゃダメだ」。上司に強く叱責されたとき、就活がうまくいかないとき、人間関係で悩んでいるとき……人生に訪れるさまざまな辛い局面で、きっと多くの人はそう考えるのではないだろうか。
「逃げる」ことは悪でありダメな人間のやることだと思い込み、真面目で一生懸命な人ほど人生から「逃げる」という選択肢を封印してしまっているかもしれない。
そんな「逃げる=悪」という世間の風潮に一石を投じるのが、巷で“三角コーンの人”などと呼ばれるWeb漫画家・やしろあずき氏の著書『人生から「逃げる」コマンドを封印している人へ』だ。
ツイッターフォロワー数は約50万人、月間2000万PVの漫画ブログを運営と、現在ではレジェンド級の記録を叩き出しているやしろ氏だが、好きなことを仕事にしている現在の彼がいるのは、とにかく嫌なこと・苦手なことから「逃げ」続けてきた過去があるからだという。
今回は、「逃げる」コマンドを持たない人が陥りがちな「罠」について、徹底的に語ってもらった。
もしかして、あなたの人生からも「逃げる」コマンド、消えてしまってはいないだろうか? 自身に問いかけながら、読んでみてほしい。(取材・構成/川代紗生、撮影/疋田千里)
人生は「自分ファースト」でいい
──本のなかで合言葉になっているのは、「自分ファースト」という言葉でしたよね。
やしろあずき(以下、やしろ) 今の世の中、もう少し「自分ファースト」で考えてもいいんじゃないかなと思っています。仕事でも人間関係でもそうですが、真面目に考えすぎて他人を優先した結果、自分を壊してしまうくらいなら、ときには不真面目にサボってガス抜きしたほうがいいんじゃないかなと。
本当に真面目な人って、マジで仕事中に全然サボらないんですよ。誰よりも早く出社して、誰よりも遅くまで残業してとか、お昼休憩のあいだもずっと仕事してるとか……。
もちろん、そういう働き方が悪い! と言っているわけではないですよ。嫌なことからも逃げずに一生懸命働く人は素晴らしいと思うんです。今回書いた『人生から「逃げる」コマンドを封印している人へ』というタイトルから、もしかしたら「嫌なことがあったらぜ~んぶ逃げちゃえ! なんとかなるっしょ!」みたいな内容を想像する方も多いかもしれないんですが、そういう意図ではなくて。
ただ、人生の選択肢に「逃げる」コマンドがない人は、手抜きできるタイミングで手抜きするとか、ちょっと疲れたときに不真面目になってみるとかができないんです。そういう生き方を続けていると、必ずいつかどこかで綻びが生じてしまうと思うんですよね。
WEB漫画家 livedoor公式ブロガーとして月間2000万PVの漫画ブログを運営。 母親に「人に迷惑をかけなければ大概のことはOK」と育てられたため、きわめて自由な大人になる。就活に嫌気がさしてきた頃、たまたま応募したゲーム企画コンテストでベストアマ賞を受賞。それによりゲームプランナーとなるが半年で退社。その後、大手ゲーム会社に転職するが自分の意思に関係なく働かねばならない会社員の働き方が劇的に合わず、仕事の傍ら趣味で続けていたインターネットへの漫画投稿の収益が本業の給料を抜いたことで手応えを感じフリーランスになる。2015年Twitterに投稿した「スタバで見た小学生達の話」がこの年最もリツイートされた日本語アカウントランキング第4位にランクイン。一躍有名になる。以降、様々な連載、企業漫画を執筆しつつ2018年、株式会社グランツアセット執行役員就任。2019年漫画事業・工事用品レンタル事業を法人化し、代表取締役となった。著書に『人生から「逃げる」コマンドを封印している人へ』(ダイヤモンド社)がある。
Twitter:@yashi09
ブログ:http://yashiroazuki.blog.jp/
「逃げる」選択肢を持つことで広がる可能性
──「逃げる」コマンドを持たない人に訪れる「綻び」って、たとえばどんなことでしょう?
やしろ 僕はこの本のなかで散々「嫌なことからは逃げろ」と言い続けてきましたが、「絶対に逃げてはいけない、ここは両脚をマントルくらいまで深くブッ刺して踏ん張らねばならぬ!」という状況は必ずきますよね。人生において、「絶対に逃げてはいけない場面」ってあると思うんです。
ただ、「逃げる」コマンドを封印してきた真面目な人たちは、いざそういう場面に立たされると、ブツっと糸が切れたかのように、その「本当に逃げてはいけない状況」から逃げてしまう、というのをよく目にします。
しかも、今後修正のきかない、取り返しのつかない逃げ方をしてしまったりするんですよね。それこそ、「会社のために一生懸命働かなきゃ!」ってブラック企業で追い詰められて、心身を病んでしまう……。とか、取り返しがつかないじゃないですか。
おそらくそれは、今までうまく「逃げる」コマンドを使えていなくて、精神や体力を消耗し、いざ「絶対にふんばらなきゃいけない局面」がやってきたときに、立ち向かえるような気力が残っていないからだと思うんです。
だから、何も「なんでもかんでも逃げろ」と言いたいわけじゃないんですよ。普段から「逃げる」コマンドを表示させておくことによって、「もしあそこに逃げられるとしたら、どうなるかな?」と選択肢が広がる。それはイコール、自分の考え方を広げることにも繋がると思うんです。